「21世紀に間に合いました。」

そんなキャッチコピーで世界初の量産ハイブリッド乗用車トヨタ『プリウス』が発表されたのが1997年10月。25年の月日は、当時は魔法のようにおもえた好燃費を、徐々に現実のものへと変化させていった。

革命の旗手は乗用車のスタンダードとなり、世界の風景の一部をなしている。その『プリウス』のモデルチェンジは何を意味するのか? 大谷達也が5代目『プリウス』に試乗し、真意に迫る!

写真はプリウス  Z グレード(E-Four)。そのほかZ グレード(2WD)にも試乗した
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『プリウス』革命の所在

 1997年に始まったトヨタ・プリウスの歴史は、ハイブリッド・システムの効率改善に取り組む歴史だったといっても過言ではないように思う。

 効率を改善できれば燃費が向上し、CO2の排出が抑えられる。まさにオーナーにとっても地球環境にとってもいいことばかり。これを実現するため、動力分割機構(プラネタリーギア)とモーターによってエンジンの回転数と負荷レベルを(ほぼ)自由に選べるトヨタ・ハイブリッド・システム(THS)をトヨタは開発。減速時のエネルギー回生も活用することで、一般的なガソリン・エンジン(内燃機関)では成し遂げられない高効率を実現した。

 このTHSを世界で初めて搭載した初代プリウスは10・15モード燃費で28km/ℓを達成。トヨタによれば、これは従来のガソリン・エンジン搭載のオートマチック車に比べて約2倍の燃費性能だったという。

 初代誕生の6年後に発売された2代目プリウスはTHSの進化版であるTHSⅡを搭載。モーター出力を引き上げて走行性能を向上させたうえで10・15モード燃費を35.5km/ℓに改善。引き続き世界最高レベルの燃費性能を実現していた。

 その後も燃費改善の努力は続き、2009年発売の3代目は38.0km/ℓ(10・15モード燃費)、2015年発売の4代目は40.8km/ℓ(JC08モード)と、順調にその記録を伸ばし続ける。もちろん、この間にもデザイン性の向上や室内スペースの拡充にも取り組み、全般的な商品性の改善にも取り組んできたわけだが、プリウスにとって燃費改善はもっとも重要なテーマであり続けた。私が「プリウスの歴史=効率改善の歴史」と捉える所以である。

プリウス Z グレード(2WD)
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効率の王者のその先

 先ごろ発表された5代目プリウスも、もちろん燃費は改善されている。燃費計測の規則が年を追って変化しているのでややわかりにくいが、WLTCモード燃費という最新の規則に従えば、先代の27.2km/ℓから28.6km/ℓに引き上げられたという。

 それでも、進化の歩幅はずいぶん小さくなったと、多くの方々が思うのではないか。

 その最大の理由は、28.6km/ℓを記録する新型が従来よりも排気量が200cc大きい2.0リッター・エンジンを搭載している点にある。ただし、5代目プリウスには1.8リッター・モデルもあって、こちらは32.6km/ℓとこれまでどおりの大幅な改善を達成。「だったら2.0リッターの話なんかせず、1.8リッター中心で売ればいいじゃないの?」と思われるかもしれないが、この背景には、開発陣が5代目プリウスに込めた「熱い思い」があったことが、試乗前のプレゼンテーションで明らかにされた。

 プリウス開発責任者の大矢賢樹主査によれば、新型プリウスのコンセプトは「乗っていただくお客さまに長く愛される“愛車”」であり、これを実現するために「一目惚れするデザイン」と「虜にさせる走り」を目指したという。お気づきのとおり、この説明のどこにも「効率」「燃費」という言葉は出てこない。これはプリウスの歴史を変える大転換といって間違いないだろう。

 彼らが開発の方向性を大きく見直した事情は、私にもよく理解できる。自動車の効率改善は、引き続き重要なテーマだ。しかし、ユーザーレベルの話をすれば、燃費がよくなればなるほど、同じ燃費改善でもコスト面の取り分は小さくなっていく。たとえば1ヵ月の走行が1000kmで、ガソリン代が160円/リッターと仮定してみると、燃費が15km/ℓから20km/ℓに改善されると燃料代は2666円安くなるが、25km/ℓから30km/ℓに改善されても燃料代は1067円しか安くならない。ありがたみは、明らかに薄れていくのだ。

 しかし、燃費がよくなればなるほど、同じ5km/ℓの燃費改善に費やされる「技術的な負担」は重くなっていくはず。「それだったら、燃費は先代+αのレベルにするいっぽうで、デザインや走りの魅力を磨いたほうがユーザーメリットは大きいのでは?」 技術陣がそう考えるのは、実に合理的なことだと思う。

 というわけで、新型プリウスはデザインと走りの進化に重点が置かれた。