グローバル刃物メーカーである貝印が、11月8日、つまり「いい刃の日」に商品のお披露目、発表会を開催した。会場は、観世流が運営する能楽専門の講演場「観世能楽堂」。気になる新商品とは?

この日登壇した、左から遠藤貝印社長、板垣李光人さん、藤本美貴さん、日爪ノブキさん

 

「いい刃の日」に発表された新しい商品

 

「アートは問、デザインは解。」

 これは刃物メーカー貝印が掲げる、「いい刃の日」の今年テーマである。そして、その「いい刃の日」に、東京・銀座の観世能楽堂で貝印の活動に関わる3つの発表を行った。

 ひとつ目が、貝印の本業である包丁について、それから、今季初開催となった帽子デザインコンテストについて、そして、3つ目が俳優・板垣李光人さんとコラボした「マルチユーズブラシ」の発表である。

 まず、包丁であるが、貝印が誇る包丁ブランド『旬』が2022年10月に累計出荷本数1,000万丁を突破したということだ。『旬』は2000年に欧米で発売を開始して以来、その機能性や美しさが好評価で、世界中のユーザーが愛用してきた逸品。その顧客は、一般の人々はもちろん、人気レストランのシェフ、料理研究家に至るまで、幅広い層に及んでいるという。

 今回発表されたのは、その報告と、来年、この快挙を記念した「1,000万丁突破記念モデル」を秋に発売するということだった。奇しくも来年は貝印が創業115周年を迎える記念の年。とてもいいタイミングの記念モデル発売となりそうだ。

 また、貝印には国内家庭用包丁でシェアNo.1というブランド『関孫六』からも、この日(11月8日)より、最高峰のシリーズとなる『関孫六 要』が発売されるということ。

日本有数の刃物産地で培われた包丁「関」の中でも最高峰のマスターライン

 そのベースである『関孫六』は、発売開始から40年以上愛用されている貝印の看板ブランドのひとつで、切れ味にこだわった包丁や調理道具を豊富に揃えている。その商品数は、現在1,200種類を超えているということだ。

 そもそも『関孫六』は、鎌倉時代にはじまった関の刀剣作りを起源とするブランド。「折れず曲がらず、よく切れる」と称賛された関の刀の技術を現代に活かした商品である。バランスに優れ、耐久性も抜群と、評価も高い。そのブランドの最高峰が『関孫六 要』なのである。そこには高い機能性に、造形的な美しさが加わり、まさに機能美が具現化されている。

 その商品は、刃の先端部分に和包丁をルーツとする切付形状を採用。剣型の刃先は、肉の筋切りや人参の飾り切りなどの細かい作業がしやすく、持ち手は職人が1本ずつ手作業で削って作られた八角柄。大きな男性の手であっても馴染みやすい形状であるなど、使い勝手の良さも付け加えておきたい。

 

初の帽子デザインコンテスト

 

 続いて紹介されたのがハサミである。刃物メーカーである貝印は、縫製ハサミの開発、製造においても長い歴史がある。

 そのハサミを使用して製作される帽子を題材にしたコンテスト「KAI Hat&Head-piece Competition」も、このイベントに先立って行われていて、この日は、その最優秀賞作品が発表されたのだ。帽子デザインコンテスト自体が初めての試みだったようで、今回の受賞者は「初代」ということになる。

 この日は審査員のひとりで、フランス国家最優秀職人章の称号を持つ、Hat&Head-piece  designer日爪ノブキさんが登壇。8月10日に開催した「ハットの日」のイベントで発表した優秀賞15作品の中から最優秀賞、そして、スペシャルサポーターを務めるモデルの冨永愛さんが選んだ「冨永愛賞」、の2作品が発表された。

帽子デザインコンテストの優秀賞受賞者たち

 日爪さんは、「帽子に携わる人間として、今回のデザインコンテストの開催にはとても興奮しました。その中で数多くの素晴らしい帽子デザインに触れ、僕自身も刺激を受け、とてもいい経験になりました」とコメント。若手帽子デザイナーの初々しい感性に触れ、刺激を受けているようだった。

 そして、貝印と日爪さんによる「縫製ハサミ」の共同開発が発表、お披露目された。完全受注生産で2023年から販売される。

 これは貝印の40年以上培ってきた縫製ハサミの製作技術と、日爪さんの技能、知見を結集させたもので、5年以上の製作期間を経て作られている。世界最高峰を目指したハサミは、縫製用ハサミと理美容ハサミの機能融合することで、その機能は、切るだけではなく、切れ味や味感にまで及んだという。

 日爪さんも「既存のハサミの概念を覆し、0からハサミの概念を再構築しよう」と取り組み、満足のいくハサミが出来上がったようで、次のように話してくれた。

「今回、究極の機能性、そしてフォルムの美しさを追求しました。縫製用のハサミに理美容ハサミの要素をブレイクスルーし、圧倒的な切れ味を実現しました。このハサミの唯一無二の切れ味に注目してほしいです」

 どうやら、これまで我々が味わったことのない新しいハサミが誕生したようだ。

貝印と日爪ノブキさんが共同開発した、縫製用と理美容用が機能融合する新しいハサミ

 

俳優・板垣李光人のアイディア

 そして、最後、3つ目の発表がメイクブラシ「マルチユーズブラシ」である。

 これは俳優の板垣李光人さんがアイディア元。

「普段メイクブラシを使っている中で、持ち手の部分はまだ使えるのに、ブラシの先の部分は使用を重ねていくことで広がってしまったり、洗っても汚れが落ちなかったりと、すぐ使い捨てになってしまうのがすごくもったいないなと思っていました。後、旅行等でも気軽に持ち運べるメイクブラシがほしいなと思っていたことも、アイデア考案のきっかけでした」

 果たして出来上がった商品は、板垣さんの「イメージ通りのもの」だったそうだ。ただ、この「マルチユーズブラシ」も、板垣さんご自身が愛用している貝印のグルーミングツールブランドの「AUGER®」からインスピレーションを得たものだったという。

 今回「マルチユーズブラシ」は、「種類が多すぎても使いづらいので」ということで、厳選した3種類を販売するそうだ。

メイクブラシ「マルチユーズブラシ」を持つ板垣李光人さん

 すべての発表が終了した後は、板垣李光人さんとタレントの藤本美貴さんによるトークセッションが行われた。話は「アートは問、デザインは解。」にちなみ、生活の中で触れられるアート、デザインについて、それに触れる機会や感じることを中心に展開された。

 長きにわたる伝統を継承する貝印が、観世能楽堂というトラディショナルな場所を選んだ発表会は、あらためて伝統とは革新していかないと続かないのだ、ということを感じさせてくれるものだった。