スタイリング=櫻井賢之 撮影=長山一樹(S-14) グルーミング=HORI(BE NATURAL) 文=山下英介
ノンシャランとは何か?
ノンシャラン。たまに耳にする言葉だが、その語源はnonchalantというフランス語だという。辞書をひくと無頓着、のんき、投げやりといった言葉が並ぶが、その響きはどこか洒落ていて、不思議とロマンティックに感じてしまう。風の吹くまま自由に生きる風来坊、といったイメージだろうか? どうしてこんなことを調べたかというと、今季の〝エルメス〟のコレクションテーマが、まさに「ノンシャランな夏の装い」だったからだ。
自由に解釈したトラディショナル
ロンドンストライプのシャツ、チェックのジャケット、コットンパンツ、ニットカーディガン……。そのワードローブはどれもトラディショナルなものだが、サイズ感はおしなべてボリューミーで、決して格式ばった感じはない。袖を通した人の動きや、その日に吹く風次第で、シルエットを自由に変えていく。ルーズだけれど高貴で、どこかに退廃の香りをも秘めている……。確かにその様子を一言で表現する言葉は、日本語からは見つからない。そう、ノンシャランという表現がぴったりなのだ。
写真のコーディネートも、まさにそんな「ノンシャランなフレンチトラッド」を体現したもの。レインコートにシャツ、チノパンというコーディネート自体はベーシックだが、全体のルーズなシルエットに加え、シャツを2枚重ねたレイヤード、コンパクトなスカーフやサンダルといった小物使いによって、ルールにとらわれない涼やかで自由な空気感を表現している。
マーケティングにとらわれない、自由なクリエイション
そんな〝エルメス〟のメンズウエアは、なんと30年以上にわたってヴェロニク・ニシャニアンというひとりのアーティスティック・ディレクターが手がけている。彼女がつくる洋服は、刹那的なマーケティングとも難解なコンセプトとも無縁。究極のクラフツマンシップを駆使した、世界で最も上質なデイリーウエアなのだ。だからこそ毎日でも袖を通したくなるし、大切にすれば何十年だって着ることができる。
かつて彼女はインタビューで、男性にとってルックスなどは重要ではなく、自由な精神を持っていることこそが魅力的であると語った。そんな精神に訴えかけるものづくりをしているからこそ、〝エルメス〟の洋服は普遍的なのだ。