2015年の国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)を指針として、ファッションブランドもまた積極的に地球環境を保護するための生産や商品管理を行い、そのプロセスを公表するようになった。

 カシミアの雄、ロロ・ピアーナは、カシミアにまつわるドキュメンタリー映像を公開する。監督はフランスの生物学者であり、アカデミー賞を受賞したリュック・ジャケ。彼がカシミアの産地たる内モンゴル自治区のアランシャン砂漠へ向かい、ロロ・ピアーナがどのようにカシミアを生産しているのかを明らかにしていく。

 世界で最も細いカシミア繊維を生み出すのは、当地のヒルカス山羊である。近年、生産量を増やすために品種改良が行われ、生態学上のバランスが崩れていたが、ロロ・ピアーナが生態系を保護することに着手した。2009年に「ロロ・ピアーナ・メソッド」を開始し、山羊一頭あたりの採取量と質を高め、生産者の生活水準を向上させ、かつ動物と生息環境のバランスの回復までもたらしている。

 地球環境の向上を視野に生産された製品と知れば、時代にふさわしい品格まで備わるかのように見えてくるから消費者の目は不思議である。もちろんそんな生産背景を知らなくても、ロロ・ピアーナのコートは、アーカイブにある細部のデザインを再現し、裏面まで細やかな審美眼が行き届いて、ため息がでるほど美しい。サスティナビリティと歴史と現代性、そして美しさ。わがままな消費者が求める高い水準を提供する努力を怠らないブランドのコートをまとうと、私たちもまた、高いハードルを超えていかねば、いや超えていけるのだ、という勇気を与えてもらえる思いがする。

文:中野香織