ナポリのキートンといえば、イタリアを代表する超高級スーツのブランドである。創業は1969年、7代にわたり服地卸を営む家系のチロ・パオーネが、ナポリ仕立ての伝統を新時代に存続させるべく、「ベスト・オブ・ベスト・プラス1」というスローガンを掲げて立ち上げた。それから半世紀、着実に成長を遂げ、「世界で最も美しい服」を作るブランドとして認知されている。

 羽織るような着心地を誇るキートンの、2019年秋冬コレクションのスーツは、時代に合わせてさらに快適に進化した。その特性は、「アンストラクチャー」。スーツ独特の堅い構造(ストラクチャー)から解放された服、という意味である。スーツケースに放り込んで気軽に持ち運ぶことができ、ガーメントバッグに入れる必要もない。日中はシャツとネクタイと合わせ、夜はTシャツとスニーカーでカクテルへ。「スマートカジュアル」の時代に適応できる新しいスーツである。

「アンストラクチャー」だけでもかなり斬新な進化に見えるのだが、キートンはさらに時代の需要に応え、アウトドアライフにも使えるアイテムを展開する。たとえばこのファーの襟付きパーカのようなミリタリージャケットときたらどうだろう。

 最高級のスーツブランドが作る、破天荒なまでに贅沢なミリタリージャケット。ウォーコア(まるで戦争に備えるかのような、街中での戦場スタイル)流行の時代に、キートンの仕立て技術が生む極上の着心地が、せめてもの心の平和をもたらしてくれるかもしれない。

文:中野香織