今年のカルティエは、「タンク」、「パシャ」、「サントス」、「バロンブルー」から、新しい「クロシュ」まで、バラエティに富んだラインナップを揃えた。さらに、昨年発表された新開発のクォーツムーブメントが充実し、ソーラービート™という光発電ムーブメントも投入されるなど、新しい試みも行っている。停滞する世の中でも攻める姿勢を崩さない、名門の凄みを感じるラインナップであった。

文=福留亮司

光発電、ステンレススティールケース、33.7×25.5㎜、30万3600円
Laziz Hamani © Cartier

タンク マスト

 アールデコ様式の代表的モデル「タンク」が、また新たな進化を携えて登場した。とはいえ、伝統のデザインは継承されており、独特のレクタンギュラーケースは健在。ただ四隅が丸みを帯びるという個性を持ち合わせている。今年のトピックは、なんといっても「ソーラービート™」を搭載したこと。光によって発電を行いクォーツムーブメントを動かすものだ。それによってデザインがまったく損なわれていないのがカルティエらしい。デザインの美しさをキープするために、ローマ数字のインデックスに穴を開け、そこからダイヤル下に置かれた電池に光が届けられているのだ。しかも、この機能を搭載しながら、ケース厚も他の「タンク マスト」とまったく違わないというのだ。4年の歳月をかけたという「ソーラービート™」は、16年の耐久年数も確保している優れものでもある。リンゴの廃棄物などから作られた植物素材が40%含まれたストラップも装着されるなど、とてもエコな要素が詰まった1本だ。

自動巻き(Cal.1904-CH MC)、ステンレススティールケース、ケース経 41㎜、110万8800円
Maud Remy-Lonvis © Cartier

パシャ ドゥ カルティエ

 カルティエ初のメンズ防水時計からインスピレーションを得て誕生した「パシャ」は、2020年にデザインを刷新。「パシャ」が誕生した1985年当時のデザインを踏襲することで、クラシカルな要素と現代のテクノロジーが融合し、また新しい魅力が引き出された。今年の新作である41㎜の“クロノグラフ”モデルも、85年の流れを継承したものだ。バリエーションは18Kイエローゴールド製とステンレススティール製の2種類。継承されたラウンドケースやリューズカバー、独特のラグはそのままに、よりモダンな仕上がりとなっている。100mという申し分のない防水性能、そして、ブレスレットには自分で簡単にサイズ調整ができるというスマートリンクシステムが採用されている。ムーブメントは自社製自動巻きクロノグラフ「Cal. 1904-CH MC」。「カリブル ドゥ カルティエ」にも搭載された安定のムーブメントだ。まさにデザイン性と実用性を兼ね備えたモデルといえるだろう。

手巻き(Cal.1847MC)、18Kピンクゴールドケース、37.15×28.75㎜、320万7600円
Olivier Arnaud © Cartier

クロシュ ドゥ カルティエ

 過去の名作をリスペクトしたコレクション「カルティエ プリヴェ」の5作目として登場したモデル。1920年のウォッチブローチをモチーフとしたモデルで、“クロシュ=鐘”の名の通り、鐘上部を3時位置に配置したアシンメトリーなフォルムを持つ独創的ともいえる腕時計だ。しかもリューズのある方向が12時位置ということで、一見、違和感を感じることになるだろうが、インデックスがローマ数字であること、そして、時分針の中心をリューズ側に寄せることで、絶妙なバランスを保っているのだ。デザイン性の高さと時計デザインの自由度を具現化したようなモデルである。また、象徴的なカボションリューズは、このピンクゴールドとイエローゴールドモデルにはサファイアカボションが、プラチナモデルにはルビーカボションがセットされている。搭載されるムーブメントは、18年に発表された手巻き「Cal.1917 MC」。それぞれが世界限定100本となっている。