5月14日(火)、サントリーが2024年日本ワイン戦略を発表。サントリーの日本ワインの最高峰「登美」に初めて甲州100%の白ワインが加わることが明らかになった。

SUNTORY FROM FARM 登美 甲州 2022
2024年9月10日(火)発売
価格:12,000円(カタログ価格・税別)
ブドウ品種:甲州 100%

「ようやく『登美』で 甲州が出せる」

サントリーの日本ワイン「SUNTORY FROM FARM」ブランドの最高峰である山梨県の「サントリー登美の丘ワイナリー」のブドウから生み出される『登美』は、これまでプティ・ヴェルドを中核としたボルドー系ブドウのブレンド『登美 赤』とシャルドネを使った『登美 白』が販売されていたが、ここに『登美 甲州』が加わることが明らかになった。

今回は『登美 甲州』のほかに 『SUNTORY FROM FARM 登美 赤 2020』も発表となった。発売日は同じく2024年9月10日(火)。価格は20,000円(カタログ価格・税別)。 数量は540本予定。サントリー登美の丘ワイナリーが得意とするプティ・ヴェルドが54%、これにカベルネ・ソーヴィニヨン46%というブレンドだ

記念すべき1stヴィンテージは2022年。今回は発表だけで試飲等はなかったものの、2024年9月10日(火)に発売となる。

サントリーは甲州ワインを積極的に展開しており、2023年だけでも『登美の丘<甲州>2021』と『立科町 甲州 冷涼地育ち2022|ワインのみらい』でデキャンタ・ワールド・ワイン・アワードにてそれぞれプラチナ賞と金賞を獲得しているほか、普及価格帯の『甲州 日本の白』も世界的に評価が高く、さらに『登美の丘 甲州 キュベスペシャル2021|ワインのみらい』という甲州ワインとして革新的な作品もリリースしている。ここにさらに『登美 甲州』を加えるというのだ。

甲州ワインは、サントリー以外でも、甲州に命を賭けているといったレベルで入魂の作品を生み出している生産者、業界で長年の知名度を誇る有名作もあるので、そのなかに、あえて『登美』を冠して、価格も最高峰というべき12,000円(カタログ価格・税別)で投じる一作『登美 甲州』には、相当な覚悟も自信もあるものと想像される。

ところが

「嬉しいことに今年初めて『登美』で甲州が出せる。社内的な話もあって、私たちがどれだけ嬉しいかが、皆さまに伝わるかどうか……」

サントリー株式会社 常務執行役員 ワイン本部長 吉雄敬子氏

と、サントリーのワイン部門のトップである 常務執行役員 ワイン本部長 吉雄敬子氏は顔をほころばせ、この発表会で唯一、個人的とも受け取れる感情的な表現を『登美 甲州』の紹介のなかに織り込んだ。「社内的な話」というのは吉雄氏はこれまでも「いつ『登美』の甲州はできるのか?」と現場にプレッシャーをかけていたとのことで、『登美』を冠するにはまだ足りていない、となかなか完成に至らなかった『登美 甲州』が、いよいよ出せるところまできたのでこの笑顔ということのようだ。これはかなり期待してよい、ということなのだろう。

予定生産本数は1,128本だという。

甲州の生産量でもトップに躍り出る

また、サントリーは、量でも甲州ワインをリードすること、SUNTORY FROM FARMブランドのワインが、今後、ますます海外に打って出る際の、主戦力の一角として甲州ワインを考えていることを表明した。

日本ワインの人気が白熱する一方で、ワイン用ブドウの生産量は後継者や価格の問題などからむしろ減少を懸念されるほどで、サントリーは2018年からたびたび、ブドウ生産に投資し、農業法人を介して畑を拡大すると語ってきた。国内で一箇所にまとまっているワイン用ブドウの生産地としては比較的規模の大きい、登美の丘でも、栽培面積は25ha程度。日本の場合、1社が管理する畑は1箇所で30ha程度が最大級で、これは世界的にはせいぜい中規模程度にすぎない。そして、日本のワイン用ブドウ最大生産地である山梨県でも栽培面積は700ha弱(うち甲州の栽培面積は400ha程度)であり、ここに90程度のワイナリーがある。

参考までに、イタリアの小規模・高級スパークリングワインの産地「フランチャコルタ」の総栽培面積は約3,000ha、ワイナリー数が120程度だ。フランス・シャンパーニュはこのおよそ10倍。一方、日本は全国の栽培面積でようやく2,500ha弱。ワイナリー数は増えに増えてなんと約470。日本のワイン産業は小さく、さらにその内部が細かく分割されているのだ。

単位が収穫トン数なので単純計算は難しいが、サントリーは2023年の山梨県内の自社畑と自社管理畑での甲州の収穫量が49トンだったという。これを、ながらく進めている栽培地の拡大をもって2030年までに約6倍の297トンに増やすという計画は、だから、世界規模で考えれば、甲州だけでも複数のグレードのワインを世界展開するにあたっては、まだちょっと少ないかな?という程度だろう。とはいえ、計画通りにゆけば、量で日本最大の甲州生産者、つまり世界最大の甲州ワイン生産者となることは、ほぼ間違いない。

さらに今年も約7億円をワイナリーに投じて、登美の丘ワイナリーに40基のタンクを擁する醸造棟を2025年9月稼働開始予定で新設し、ここだけで年間1,000ケースの生産を可能とするとのことだ。

新醸造棟 外観イメージ
安井建築設計事務所

この醸造棟は、そのタンク数をもって、より細かな区画ごとのワインの造り分けを実現し、それらをブレンドすることでワインを仕上げてゆくということなので、生産量が増えるだけでなく、より厳密で高品質なワイン造りが可能になる理屈だ。

新醸造棟 内観イメージ 安井建築設計事務所

国外の名門ワイナリーも所有するサントリーなので、これらの判断・計画・実行は、世界で戦うのにどの程度の物量と技術が必要かを見据えた上でのものだろう。サントリーのワインの今後に期待が高まるだけでなく、こうした大手の積極的な日本ワインへの投資が、日本ワイン全体の活性化にも繋がることにも、大いに期待したい。