スタイリイング=櫻井賢之 撮影=長山一樹(S-14) グルーミング=HORI(BE NATURAL) 文=山下英介
そのルーツは、シチリアへの愛
いわゆる大資本に属さないインディペンデントのデザイナーデュオとして、1985年のミラノ・コレクションデビュー以来、自由なクリエーションを貫いている〝ドルチェ&ガッバーナ〟。近年、多くのラグジュアリーブランドがグローバル化を進めていくなかで、その国特有のファッション文化は希薄になってしまった。しかしこのブランドは、決して創業当時の「におい」を失っていない。デザインのルーツも、サルトリア(仕立て屋)の技術を駆使したものづくりも、徹頭徹尾イタリア的──さらに突き詰めれば、ドメニコ・ドルチェの故郷であるシチリア的なのだ。
シチリア流トロピカルスタイル
今季のコレクションにおいても、そんな〝ドルチェ&ガッバーナ〟らしさは濃厚に楽しめる。なんといってもそのテーマは「シシリアン トロピカル」! アジアやアフリカ、南米といった熱帯地方を彷彿させるワードローブを、シチリアのフィルターを通して表現しているのだ。コロニアル調のサファリシャツ、フルーツを全面にあしらったプリントシャツ、レオパード柄のシャツやパンツ……。それらはモチーフこそ南国的だが、イタリアならではの仕立て技やドラマチックなシルエットで表現することによって、いかにもシチリア的なセクシーさを漂わせている。
写真の装いはクラシカルな4つボタンのサファリジャケットに同系色のコットンパンツを合わせた、典型的なコロニアルスタイルだが、上質なコットン生地や身体にフィットした美しいシルエットは、まさに〝ドルチェ&ガッバーナ〟の真骨頂。しかしもちろん従来のスタイルにとどまるだけではなく、英国調のトレンチコートやテック系のスニーカーといった、今までにないアイテムを取り入れている点にも注目してほしい。
グローバル社会への静かな抵抗
このようにストイックさとは無縁で、今まで様々なテイストを飲み込み、新鮮なコレクションを展開してきた〝ドルチェ&ガッバーナ〟だが、絶対にそのアイデンティティを失うことはない。その核にあるのは、ものづくりや故郷シチリアに対する「愛」なのだ。世の中のファッションがどんどん画一化していくグローバル社会において、こんな温もりあふれるブランドが存在し続けることは、ひとつの希望なのかもしれない。