スタイリング=櫻井賢之 撮影=長山一樹(S-14) グルーミング=HORI(BE NATURAL) 文=山下英介
異なるルーツをもつデザインデュオ
オートクチュール出身のルーシー・メイヤー。ストリートブランド出身のルーク・メイヤー。2017年から、この大きく異なるバックボーンをもつ夫妻をクリエイティブ・ディレクターとして招聘し、大成功を収めたのが〝ジル サンダー〟である。このブランドを語る上で欠かせないキーワード「ミニマリズム」を見事に体現しつつ、現代の生活に欠かせないワードローブに落とし込む技術は、シーズンごとに完成度を高めている。
ミニマリズムの極致、ノーカラージャケット
美しくて、機能的で、合わせるワードローブを選ばない……。そんなストイックさや完璧さこそ、〝ジル サンダー〟が誇るテーラードジャケットの持ち味だが、今季はそんなスタイルにちょっとした「隙」を加え、どこか親しみやすいムードを演出しているようだ。
たとえば写真のジャケットは、日本製のウールギャバジンを使い端正なシルエットに仕立てながらも、ラペル(襟)を内側に折り返したノーカラー仕様。裾幅25cmのセットアップパンツと合わせることによって、よりリラックスした装いを楽しませてくれる。イタリアの職人がレザーを編み込んでつくったというメッシュバッグも、大事なアクセント。構築的でクールなイメージが強かった〝ジル サンダー〟のスタイルに、有機的な人の手の温もりを添えているのだ。
クラフツマンシップへのリスペクト
自然と旅を愛し、 そこに根付いた伝統的なクラフツマンシップに敬意を捧げてやまない、ルーシー&ルーク夫妻。しかし彼らはそのメッセージや芸術性を、決して声高に主張することはない。彼らが生み出すすべてのデザインは、私たちが快適に装い、暮らすために機能する。その姿勢には、あたかも我が国で生まれた「民藝」の思想が宿っているかのようだ。