文=福留亮司

アンバサダー、クリストフ・ルメール氏と彼が着用するモデル「レイダー・ディープブルー」。シンプルな2針で、視認性は極めて良い。レイダー・ディープブルー 自動巻き、SSケース、41㎜径、30万円

まだ一般的に知られていないブランド

 いまとなっては考え難いことだが、20世紀中の日本の時計事情は、スイスの時計ブランドでもいくつかの有名どころ以外は認知されてない、というのが現状だった。それが21世紀初頭に世界的な時計ブームが起こり、以降、日本でも数多くの時計ブランドが知られるようになっていった。ただ、まだ一般的に知られていないブランドも少なからず存在するのも事実である。そこが、時計王国スイスの奥深さでもあるのだが。

 ファーブル・ルーバというブランドをご存知だろうか。

 一般的には、あまり知られてないが、スイスの時計産業の拠点のひとつである、ル・ロックルで誕生したバリバリのウォッチメーカーである。しかも、1737年の創業だから、実に280年以上の歴史を持つ老舗でもある。そして創業から現在まで、一度も途切れることなく続いているという、奇跡のような会社でもある。

 ということは、確固たる技術と営業力を持ち合わせていたはずである。資料を読むと、19世紀のロンドンやパリ、ベルンといった欧州の万博への出展だけでなく、ニューヨークでも高い評価を得ていたようだ。20世紀に入り腕時計の時代になっても、モノプッシュ・クロノグラフなど実用的なモデルを製作。さらには、手巻き、自動巻きに関わらず、数多くのムーブメントなどを、意欲的に製作している。

 

200m防水のダイバーズウォッチ「ディープブルー」

 そして、1960年代には黄金期を迎える。1962年に発表された「キャリバー FL251」は、ツインバレル、50時間パワーリザーブを有しながら、エクストラフラットを実現。同じ年には、高度計と気圧計を載せた手巻き腕時計「ビバーグ」も製作している。また、63年には200m防水のダイバーズウォッチ「ディープブルー」を発表。68年には毎時36,000振動のハイビート「キャリバー FL1162」を搭載した腕時計を世に送り出している。

 他にも実用的なモデルを生み出していたが、69年のクォーツ時計誕生を機に起こった、いわゆるクォーツショックの影響を受けて、80年代には創業家であるファーブル家が会社を手放すことになる。そこから数回に渡り、会社の所有者が変更することになり、低迷期がしばらく続くことになる。ただ、創造性に富んだ実用時計を8代に渡って受け継いできた精神は生き続けていたようだ。

 2011年にタタ・グループのブランドとなり、翌年には新生ファーブル・ルーバが始動するのだが、そこからはファーブル・ルーバの歴史とそのタイムピースを徹底的に研究し、ブランドのもつ強みをベースに長期的戦略が計られるようになった。つまり、黄金期のファーブル・ルーバ同様の創造性のある実用腕時計を模索しはじめたのだ。

 日本にもあらためて紹介された1本針の「レイダー・ハープーン」、高度9000mを測定できる「レイダー・ビバーク9000」、水深計搭載の「レイダー・バシィ120メモデプス」など、誕生したモデルは、どれもファーブル・ルーバの歴史の延長線上にある。しかも、進化して。

1973年のファーブル・ルーバモデル。現代のモデルが、70年代のレトロフューチャーデザインであることがよくわかる。

名作ダイバーズの名を冠した

 そんななか、ここに紹介するのは63年に発表された名作ダイバーズの名を冠した「レイダー・ディープブルー」である。70年代を彷彿させるレトロフューチャーデザインのモデルは、クッションケースで、大きく四角いインデックス、14角形の風防リングという個性を纏っている。

 逆回転防止ベゼルを有した本格的ダイバーズウォッチは、防水性能も63年の200mから大幅にアップさせた300m防水を実現している。搭載する毎時28,800振動の自動巻きムーブメントは、約40時間のパワーリザーブである。堅牢性、正確性、そして、高い視認性と、すべての項目で高い水準を示す実用性の高い、信用できるパートナーとなることだろう。

 少し話が逸れるが、今年ファーブル・ルーバは、ブランドアンバサダーにフランス人騎手、クリストフ・ルメール氏を起用している。黄金期であった60年代にスポーツ界のヒーローを積極的に支援していたこともあり、近年の流れを考えると当然のことだといえよう。

 そのルメール氏はフランスのトップレベルのジョッキーだったが、今世紀のはじめ頃からJRA(日本中央競馬会)でも騎乗しはじめ、15年から本格的に日本に移籍。現在では、日本を中心に世界中で騎乗し、現在までに日本での1000勝を含む、2500勝以上を挙げている。また、18年には215勝を挙げ、JRAの年間最多勝利数記録保持者となっている。競馬界のヒーローのひとりである。

 彼が着用するモデルは「レイダー・ディープブルー」。このモデルのコンセプトは“未知の世界に飛び込むこと”である。日本をはじめ、世界各地のレースに“飛び込んだ”ルメール氏”は、その概念にピタリと一致するのだ。

 つまりファーブル・ルーバの腕時計は、スポーティかつ実用性に富んだもの。しかも、エレガントである。そして何よりも30万円前後という価格帯がいい。いま、腕時計は高額化しており、この価格のモデルは薄めでもある。上質な実用時計が欲しいなら、ファーブル・ルーバは狙い目である。

ファーブル・ルーバの歴史を受け継いだ「レイダー・ハープーン42」。ダイヤル上の針は潜水時間(分)を計測するための1本のみ。時間はアワーリングで表示し、秒はセンターのディスクが回転する。また、夜光塗料(スーパールミノバ)が塗布されており、水中や暗所でも高い視認性を誇る。レイダー・ハープーン42 自動巻き、SSケース、42㎜径、38万5000円