マガジンハウスは、現代ヨーロッパを代表する漫画家 マヌエレ・フィオールの初邦訳作品『秒速5000km』(栗原俊秀、ディエゴ・マルティーナ 訳)を全国書店・インターネット書店にて発売した。2011年に世界で最も権威のある漫画賞「アングレーム国際漫画祭最優秀作品賞」を受賞し、発表当時からヨーロッパや北米を中心に高い評価を得てきた作品だ。フィオール作品の邦訳は今回が初。

秒速5000km
マヌエレ・フィオール(著) 栗原俊秀(訳) ディエゴ・マルティーナ(訳)
B5変型・160ページ 3300円(税込)
株式会社マガジンハウス
ISBN:978-4-8387-3238-8

恋愛の⼩さな痛みと美しい⾊彩

 マヌエレ・フィオールはイタリア出身の漫画家。海外漫画ファンのあいだでは、新鋭の作家として広く知られている1人だ。漫画家の松本大洋や故・谷口ジローも注目の作家として名前を挙げたことがある。日本では2017年に伊坂幸太郎『クリスマスを探偵と』の挿絵を描き下ろした。

 今回、日本語版が出版された『秒速5000km』はイタリア・ノルウェー・エジプトの3カ国を舞台とした、マヌエレ・フィオールの代表作。

 刺すような日差しの中で出会った、2人の少年と1人の少女が主人公だ。三者三様の人生が淡く交わる20年の恋模様を描く。甘酸っぱさと苦味を併せ持つ、誰もが身に覚えのあるような、言葉にすることも難しい恋愛の小さな痛みを美しい色彩で表現する。

作中にナレーションはなく、主人公たちの⼈⽣の6つの場⾯を断⽚的に⾒せることで、わずか140ページで20年の⽉⽇を描いている

 書名の『秒速5000km』は、舞台となるノルウェーとエジプトの距離=5000kmと、国際電話のタイムラグ=1秒に由来し、1つの章に1つの舞台だけが描かれる構造から、離れ離れの主人公たちをつなぐ、電話や⼿紙といったコミュニケーション⼿段が印象的なガジェットとして描かれる。

 フィオールの作品は色彩が物語構造を示唆するように繊細に設計されている。『秒速5000km』は黄緑色から始まり、暖色や寒色のあいだを振り子のように行きつ戻りつしながら進む。登場人物の感情が最も不安定になるときに紫色が基色となり、クライマックスを迎える。エピローグでは黄緑色へ。

  日本語版の巻末には、翻訳者の栗原俊秀⽒による、10000字越えの解説「フィオールに魅せられて―⽂学、美術、建築が綾なすフメッティの世界―」を収録。

  フィオールの経歴や作品、また彼と深く関ることになる出版社ココニノ・プレスについて書かれた⽂章で、現代イタリア漫画史にフィオールという漫画家を位置付ける。特にココニノ・プレスは、⽇本ですでに紹介されている漫画家・イゴルトが設⽴したユニークな出版社。「BD(バンド・デシネ)」とは違った、イタリアの現代漫画の情況を、豊富な図版とともに、解説している。