文=青野賢一

 さる7月15日に日本初上陸となった、フランスのオーディオ・ブランド〈La Boite concept(ラ ボワット コンセプト)〉。博士、エンジニア、デザイナー、製造の専門家、マーケティング・スタッフからなるチームが2008年に立ち上げたオール・イン・ワン・オーディオ・ブランドである。開発者の一人、ティモシー・カニャールは1938年にフランスで創業した老舗スピーカー・メーカー〈SIARE(シアレ)〉の創業者の孫にあたる人物で、80年にわたってカニャール家に受け継がれてきた音響設計思想を〈La Boite concept〉のプロダクトに生かしているという。本稿は東京・青山で開催された同ブランドの発表会にて、実際に製品に触れ、試聴したうえでのインプレッションである。

 同ブランドの製品のうち、日本で販売されるのは大きく分けて3カテゴリー。ターンテーブルとスピーカーユニットを組み合わせた、サイドテーブルのようなルックスの「LX-TT」、コーヒーテーブル・サイズのアクティブ・スピーカー「CUBE」、マルチメディア・ステーション機能を備えたオール・イン・ワン・スピーカー「PR/01」だ。いずれのモデルもインテリア・アイテムとして存在感があり、また高級感がある。

 

5スピーカー搭載のシックなオール・イン・ワン

 「LX-TT」のスピーカー部は、エンクロージャー下部、下向きに取り付けられたウーファー1基と前面のミッドレンジ・スピーカー2基、そしてエンクロージャー背面に斜め上向きに設置されたツイーター2基の5スピーカーからなる。特許技術の「Wide Sound ® 3.0」を駆使した没入感のある再生音が特徴である。ターンテーブル部はフランスの〈Elipson(エリプソン)〉製で、ベルトドライブ方式。カーボンアームの先にはデンマークの〈Ortofon(オルトフォン)〉のカートリッジ「OM 10」が装備されている。衝撃吸収バネを備えた防振ボードによって、スピーカーの振動がターンテーブルに干渉しないような作りだ。

 本品で特筆すべきはツイーターのあしらいだろう。先に述べた通り、ツイーターは背面の斜め上方向に向けて取り付けられているのだが、直進する性質を持つ高音を内部の凸型デフレクターを使って反射させることで、特定のリスニング・ポイントにとらわれることのない状況を作り出すことに成功している。本製品はソファなどに腰掛けて使用することが想定されるが、そうしたリスニング環境においてこのスピーカーの良さが発揮される設計なのだ。また、壁との距離や壁の材質によっても響き方が多少変わると思われるので、設置場所を探ってみれば各人の好みのサウンドに近づけていけそうである。セパレートのオーディオの悩みの種であるごちゃごちゃとしたケーブルは、本品では表に出ないため、実にすっきりした印象。ウッド部分のシックな色合いと仕上げも実にいい。RCAや3.5mmミニといった入力端子のほか、Bluetoothにも対応しており、手持ちのデジタル・デバイスの音源を再生することも可能だ。

オール・イン・ワン・アコースティックスピーカー+ターンテーブル「LX-TT」W69×D48×H79cm/30kg 58万円(税別)

一台でナチュラルな3Dサウンドを実現

 バスク地方の天然木を贅沢に使い、高級家具クオリティで仕上げたアクティブ・スピーカー「CUBE」は、ウーファー1基とフルレンジ・スピーカー2基を搭載したモデル。ウーファーは前面に、フルレンジは「LX-TT」のように背面斜め上に向けて配置され、内部リフレクターで音を反射させる「Wide Sound ® 2.0」テクノロジーによって、広がりのある音場を作り出す。入力ソースはRCA、3.5mmミニといったアナログ入力もあるが、どちらかといえばBluetooth接続やトランスミッターなどを介してのWi-fi接続のイメージだろうか。一台で部屋に音楽を行き渡らせることができるので、リビングルームでソファの横に置いたり、コンパクトなサイズを生かしてちょっとしたデッドスペースに収めることも。床のテクスチャーによって音の印象が多少変わってくるかもしれないので、そのあたりを確認しながら設置場所を選ぶのも楽しそうだ。

アクティブ・スピーカー「CUBE」W49×D47×H35cm/17kg 21万6000円(税別)

様々なソースをまとめるアクティブ・スピーカー

 「PR/01」は、一見オーソドックスなスピーカーのような外見だが、実はこれ一台でマルチに活躍する優れもの。RCA、3.5mmミニ、光ケーブル(DAC 24ビット)による結線入力のほか、Bluetooth接続、そしてWi-fi接続や、Apple AirPlay、Google Chrome Castといった音声起動ストリーミングシステムとも互換性があり、様々な音源ソースを集約することができるアクティブ・スピーカーだ。ほかの2モデルとは異なり、ウーファー1基とツイーター2基のスピーカー・ユニットは前面に向けて配置されている。1970年代にカニャール家が開発した特許技術に最新のデジタル・テクノロジーを注入し、7年の月日をかけて研究、開発した「Active Pression Reflex®」という技術を駆使しており、これによって豊かな再生音を実現している。魅力は低域のファットな再現性。控えめなボリュームでもしっかりと芯のある音を聴かせてくれる。もう一つの特徴は、外箱の内部にUSBおよびUSB-Cポートを備え、またスタイリッシュなデジタル・ガジェットで知られる〈NATIVE UNION〉のワイヤレスチャージャー(別売り)を内部に収めることも可能。これにより、「PR/01」の天板を介してスマートフォンやタブレットをワイヤレス充電することができるのである。なお、ウォールナットとオークで価格が異なるが、これはウーファーの素材の違いによるものだ。

アクティブ・スピーカー「PR/01」ウォールナット W41×D25.6×H23.7cm/12kg 11万5000円(税別)
アクティブ・スピーカー「PR/01」オーク W41×D25.6×H23.7cm/12kg 12万5000円(税別)

 オーディオ・メーカーではないところが出している、デザインが売りのオーディオ機器は、オーディオとしての満足度が得られないことも少なくない。一方で、オーディオ・メーカーの製品はインテリアとの馴染みがわるかったり、またケーブル類の存在も気になるものだろう。その点、〈La Boite concept〉の製品は、まずスピーカー・メーカーというバックグラウンドがいい。長きにわたり培ってきた専業メーカーならではのノウハウとインテリア・コンシャスなルックス、そして最新のデバイスにも対応する現代的なアプローチ。これらが融合した設計思想を持つところは多くはないだろう。高級感のある佇まいと音は、リビングルームに彩りを添えてくれるにちがいない。