スカイ・マクマナスとジャレッド・ストライクのワインは、だいたい、美味い。ブルゴーニュ系のワインが好きな人には特に、騙されたとおもって飲んでみてほしい。しかも、このふたり、ホントに「いいヤツら」だ。だから、来年、大阪で開催される、彼らと会えるメーカーズディナーにはぜひ参加して欲しいとおもっている。これはその紹介記事だ。

スカイ・マクマナス(Skigh McManus)

完璧じゃないけど最高だった生産者イベント

今回は個人的な話をする。

いわゆる「コロナ禍」が始まってすぐのころ、僕は、オンラインでワインメーカーズイベントを開催した。ワインファンからワイン初心者まで30人くらいが参加してくれた。大規模なものではないけれど、オンラインで日本と海外のワイン生産地を繋いでのワインメーカーズイベントは世界的にも早い試みだったし、その後、オンラインワインイベントは数限りないほど開催されたものの、あんなに面白いイベントには、いまだに出会ったことがない。

それを仕掛けられたのは僕の自慢でもあるのだけれど、一緒にやったのが、スカイ・マクマナスとジャレッド・ストライクじゃなかったら、そんなに特別なイベントにはならなかったとおもう。

このイベントは、全然、完璧じゃなかった。本当は、醸造家のスカイが西オーストラリア州マーガレット・リバーにある自分のワイナリーから、相棒のジャレッドが少し離れたブドウ畑からオンラインに繋いで、まずジャレッドが畑を案内したあとに、ワイナリーに戻りがてら、サーファーたちに人気のビーチを紹介し、それからスカイがワイナリーと醸造のことを話す、という予定だった。

良きボーカリストには良きギタリストがともにあるように、スカイには相棒のジャレッド・ストライクがいる。「スカイワイン」の共同オーナー兼マーケティング担当だ

ところが、日本が夏になるちょっと前、オーストラリアでは冬になるちょっと前だった開催日の前日に、台風みたいな暴風雨がマーガレット・リバーを襲って、電線が切れてワイナリーには通信が届かないどころか電気も来ない状況になってしまった。ビーチは大荒れ。中止しようかとおもったけれど、お客さんたちは、ふたりのワインを買って、当日を待ってくれているから、とにかく何かやろう、それでダメならもう一回やろう!と決行した。

雨足は多少弱まっていたけれど、雨に打たれながらジャレッドは畑を案内してくれた。ごうごうと風がマイクに入って、カメラには水滴がついていたけれど、それでも必死に、ジャレッドは声を張り上げた。スカイはワイナリーそばの大雨で誰も来ない薄暗いレストランと事務所から、マーガレット・リバーと自分のワイン造りを説明してくれた。

ふたりは何度もリハーサルをやって準備してくれていたのに、打ち合わせとはまったく違うアドリブだらけのイベントで、でも、それは最高に面白かった。参加してくれた人たちも、このライブを楽しんでくれて、出入り自由でやっていたのだけれど、予定終了時間をオーバーしても、誰も離脱しないで、ふたりとワインを飲み続けていた。

マーガレット・リバーに行きたい! スカイとジャレッドと一緒にワインを飲みたい! 言葉も季節もちがうけれど、そんな一体感があった。

だから、そのふたりがクラウドファンディングで募集をかけている、2023年1月20日(金)に大阪で開催されるメーカーズディナーは、絶対、面白いに決まっている。

胸に突き刺さる魂のスクリーミング

ワイン名産地である西オーストラリア州グレートサザンにあるデンマークという小さな街で生まれ育ったスカイ・マクマナスは、物心ついた頃から、高校でワイン醸造学を学ぶのを待ち望んでいた。だから、ワイン醸造家としてのスカイのキャリアは、17歳でスタートした。

その頃の夢は「人が集まる場所に必ずある。そんなワインを造ること」だった。

高校卒業後、本格的にブドウ栽培・醸造学を学び、オーストラリアだけでは満足できず、バックパッカーとして世界へ飛び出した。イタリア、フランス、スペイン、ポルトガル、ニュージーランド、アメリカ……ワインの名産地をかたっぱしから訪れて学んだあと、スカイは故郷に帰った。

「醸造見習いの頃の重労働を共にした戦友とは今なお、繋がっているよ。自分が今どんなワインを造っているのか報告し合うのが楽しみで、やり甲斐になってるんだ」

スカイワインには素焼きの壺、アンフォラで醸造したワインがある

スカイのワイン造りに特に大きな影響を与えた国に、スペインとジョージアがある。

スカイはそこで、いにしえの自然なワイン造り、果実を信じて造るナチュラルな醸造法に魅了された。

実際、スカイは、ブドウが持つパワーを最大限引き出したナチュラルワインを生み出し、それに、エリック・クラプトン率いるバンド「クリーム」の曲から『ストレンジ・ブリュー』と名付けた。

「辛い経験も、楽しい経験も全てがその人の個性になる。魅力的で興味深い人には、失敗した経験がとても多いっていうこともあるだろう? 僕はまだまだ進化を続けるけれど、常に自分らしいワインを造っていたいんだ」

スカイは多才だ。彼のワインは『ストレンジ・ブリュー』シリーズだけではなくて、たくさんある。なにせ、スカイが使うブドウは「ゴールデントライアングル」と呼ばれるマーガレット・リバーでも特別なエリアで育ったものが多のだけれど、そこは気候と土壌の多様性に富み、世界中のブドウ品種が育つのだ。ソーヴィニヨン・ブラン、セミヨン、ピノ・ノワール、シュナン・ブラン、カベルネ・ソーヴィニヨン、ネッビオーロ、グルナッシュ、リースリング……スカイはブドウに語りかける。「お前の力を見せてみろ!」

『ストレンジ・ブリュー』の名前からも分かるように、ロックを愛するスカイだけれど、そのワインは極めて繊細だ。分厚いバックグラウンドを持つからこそ、たくさんの辛い思いをしているからこそ、そのシャウトが胸に突き刺さる。

スカイ・マクマナスはそういうワインメーカーだ。