“Elegance, Technology”を標榜し、優美な多機能高級時計を作り出してきた「OCEANUS(オシアナス)」。その美しいボディには、デザインの完成度だけでなく、カシオが持つ技術の高さが表現されている。そんな「OCEANUS」も今年15周年を迎え、スリムなフォルムを生かしたシリーズ「OCEANUS Manta(オシアナスマンタ)」の“江戸切子”を施した限定モデルが、再びラインナップに加えられた。カシオが築いてきたテクノロジーと日本の伝統工芸の融合は、まさに“Elegance, Technology”である。そこで、製作に携わった商品企画部の佐藤貴康さん、デザイン企画部の梅林誠司さんのお二人に、新しい「OCEANUS」の開発過程について語ってもらった。

(左)羽村技術センター 開発本部 時計企画統轄部 商品企画部 第二企画室 佐藤貴康
大阪府出身、2009年入社、システム業界の営業職を経て、現在のOCEANUS商品企画となる。
時計が好きで自身もOCEANUSファンの一人  
 
(右)羽村技術センター 開発本部 時計企画統轄部 第二デザイン企画部 21デザイン室 梅林誠司
東京都出身、1992年入社、メタルアナログウオッチ全般のデザインを担当。
趣味は80~90年代のレーシングカーを中心としたミニカー収集

美しい江戸切子とのコラボレーション

 まず、この「OCEANUS Manta」を見て目がいくのは、ベゼルに施された美しい江戸切子の模様だろう。光の入り方によっては何色使っているのだろうか?と思わせるマジックは、これまでの腕時計にはないものである。

 「江戸切子をサファイアガラスへ施したベゼルを搭載したMantaは、今回で第3弾となります。ブランドコンセプトの“Elegance”が感じられ、かつストーリー性がある付加価値を提供できる表現を探している中、OCEANUSの輝きと江戸切子は親和性があると感じ、ご縁もあり江戸切子職人の堀口徹さんと出会い、試行錯誤を繰り返しながら江戸切子モデルが生まれました。新しいOCEANUSの世界観を作れたと思っています。」(佐藤)

 初めての“江戸切子モデル”は、1500本限定で発売し、続いて出した同じカット、色違いのモデルも3000本と数を増したが、評判がよく、売れ行きも好調だった。それに続く第3弾のハードルは、当然ながらとても高い。

「江戸切子は1回目のときにやりきった感がありました。自分にはこれ以上のものは出せないだろう、と。それでも時が経つと、もう少しこういう風にできればというアイディアが出てくるのです。その想いを堀口さんにお話しして、何度もディスカッションを重ねながら作っていきました」(梅林)

江戸切子サファイアガラスベゼル
 
ベゼルはサファイアガラスに江戸切子の文様が施されている。江戸切子とは、江戸時代後期から受け継がれる日本伝統工芸のひとつで、ガラスの表面に彫刻を施す技法。特長は、美しい文様を生み出す繊細なカット。直線には一切の迷いがなく、曲線はあくまでも優美である。このモデルは琥珀と青の配色で、裏面からシルバー蒸着を施すことで発色を高めている。

伝統文様「千筋」

   そして、今回はテーマ性のある江戸切子を目指した。ブルーに温かみのある琥珀色が調和する様は、ある情景を意味するものだったのだ。

「千筋という模様を見て、夕方の都市を俯瞰して人や道路が交差している情景が浮かびました。夕方をイメージしたのは夕日に照らされ、ネオンが輝き出す情景が都会らしいと感じたからです。なので今回は琥珀というカラーを入れてみました」(梅林)

 この琥珀色は、オシアナス=ブルーという不文律に入り込んだ新しい色。チャレンジでもある。

「以前からオシアナスのイメージを広げる新しい色にチャレンジしたいという想いがありましたし、大前提となるブルーとの相性もよかったので、思い切ってやってみました」(梅林)

 その2色のカラーと調和して彩りを高めている江戸切子のデザインも、前2作とは違うものが描かれている。ベースとなっているのは、伝統文様「千筋」。まさに千筋ともいえる繊細なラインが、無数の道路が交差する都会の街を俯瞰した情景を表現しているのだ。

「伝統工芸色が強くなると腕時計として着け難くなるので、モダンな印象になるように仕上げました。現代のビジネスマンにも共感してもらえるデザインに、ストーリーという新たな価値を加えたかったのです」(佐藤)

江戸切子のデザインが決まると、自ずとダイヤルの配色も決まっていったという。

「インダイヤルは12時位置と6時位置にブラウン、9時位置はブラックにしました。これはあえて、韻を踏むように配置しました。ベゼルに上下対角に琥珀色を配置したので、同系の色を2つのインダイヤルだけに入れると全体のバランスがとれる、と考えたのです」(梅林)

ブラウンを使用したダイヤル
 
ダイヤルカラーもオシアナスとしては新しいカラーが使用された。インダイヤルの12時位置の積算計と6時位置の曜日表示はブラウン。9時位置のデュアルタイムはブラックとなっている。世界27の都市名は、ダイヤル外周、ベゼルの下側に表示されている。

職人が手作業でカッティング

 テクノロジーの進化と合理化のこの時代に、手作業でひとつずつ製作しているとは驚きである。当然、型を作ってもらい、切ることも可能だと思うのだが。

「もちろん、それはできます。でも、そうするとすべてが同じものになるので、面白味はないですよね。それぞれ作品として成立している方が魅力的ですから。それに江戸切子には定義があって、江戸切子協会に職人さんが切らなければ、江戸切子とは呼べないんです。つまり、手作業で切ってもらわないと江戸切子とは名乗れないのです」(梅林)

 職人により、手作業で一つひとつ丹精込めて刻まれた江戸切子の文様だが、これが腕時計であることを忘れてはならない。グラスとは大きさも素材も違うのである。まず、江戸切子のグラスはクリスタルガラスで、腕時計のそれは硬度の高いサファイアガラスである。

「堀口さんもサファイアガラスを切るのはOCEANUSが初めてでした。作業をすると硬度が高いので、切ったけれど歯がすぐにボロボロになってしまう、と。歯を研ぐ手間をいつも以上にかけて作ってくださいました」(佐藤)

薄いケース
 
テクノロジーの進化、部品の小型化により、Bluetooth®、電波ソーラーを搭載しながらスリム化を実現。ケース径42.3㎜、ケース厚は9.3㎜で、とても腕に馴染むサイズ、構造となっている。またケース、ブレスレットにはザラツ研磨が施されており、とても美しい。

厚さ10㎜を切る薄型ケース

   そんな新しい「OCEANUS」は、どうしても個性的で美しいベゼルが目立ってしまうが、そもそもはケース厚が10㎜を切るという薄型ケースをベースに製作が始まっている。そう、“OCEANUS Manta”はスリムエレガンスな腕時計なのである。

「今年のモデルは、原点回帰したかったのです。それでキャリバーを根本的にやり直し、薄くしました。イチから素材や部品を見直し、シェイプアップして薄型にしました。開発には4年ほどかかっています」(佐藤)

 そうやって出来上がった薄型モデルは、美しく、着け心地抜群のモデルに仕上げられた。

「実寸の薄さにも拘りましたが、一番大切にしたのは薄く美しく見えるデザインです。薄い時計はボリュームが無く味気がなくなってしまう傾向があるので、そうならないよう磨き、構造、色など細部に工夫を施しています。OCEANUSのクオリティとしてそこは絶対でした。」(佐藤)

 薄いのでスーツやジャケットの袖にもスッキリと収まる。ブレスレットの可動域も腕馴染みがいいように工夫しているので、着け心地もいい。美しいだけではなく、実用性の高さも「OCEANUS Manta」の大きな特長である。

 G-SHOCKで一世を風靡したカシオにとっても未知の領域へと踏み出した「OCEANUS」は、15年という節目に薄型でブルー以外の色を組み合わせた画期的なモデルをつくりだし、また新たな段階にステップアップしたようである。

「OCEANUSが15年目を迎えられたのは、ブルー、テクノロジーを使ってお客様に世界観を共感いただけたからだと思っています。ブルーはこれからも大切にしていきますが、この江戸切子サファイアガラスベゼルのように、ブランドコンセプトの“Elegance Technology”を表現できる手法を追いかけて、OCEANUSを世界的なブランドにしていければと思っています。」(佐藤)

 

三代 秀石 堀口徹
1976年、東京都生まれ。祖父が江戸切子職人であるという環境のもと、二代目秀石(須田富雄、江東区無形文化財)に江戸切子を師事。2008年、三代秀石として株式会社堀口切子を創業。日本の伝統工芸士(江戸切子)認定。

伝統的な手法や様式を継承しながらも、斬新で現代的なものづくりを信条としている。