1830年に創業で、現在、世界で7番目に古いといわれる老舗時計ブランド、ボーム&メルシエが、昨年、自社開発ムーブメントを発表し話題となった。2019年もそのコレクションを拡充。確固たるポジションを固めつつある。
評価の対象はデザインと仕上げ
長い間、ボーム&メルシエの評価の対象は、デザインと仕上げについてだった。
創業当初の19世紀にこそトゥールビヨン付きクロノメーターを開発するなど、ムーブメントにおいてもそれなりの実績を残していた。しかし、近年はその時計のエンジンに手を付けることはなかった。
もちろん、評価されている仕上げの技術には定評があり、ポリッシュ(鏡面仕上げ)やサテン(つや消し仕上げ)を絶妙なバランスで配したケースやブレスレットは、繊細かつ重厚につくられている。その美しさは“価格以上の価値がある”とも言われているほどだ。
デザインにおいても、その計算されたミニマムなデザインは、いつの時代も世にフィットするもので、トレンドセッター的な存在でもあった。
そんなボーム&メルシエが、新たなる一歩を踏み出した。ムーブメント開発に着手したのである。そして、その新ムーブメントは昨年お披露目された。新開発のムーブメントは、リシュモングループのムーブメントメーカー、ヴァルフルリエとリシュモン開発チームとの協力体制によって製作され、「ボーマティック」と名付けられた。
シリコン製の脱進機とヒゲゼンマイ
この直径28.8㎜の自動巻きムーブメントは、改良された合金製バレルにシリコン製の脱進機とヒゲゼンマイを採用している。特筆すべきはヒゲゼンマイで、上下2枚のシリコンを貼り合わせた独自の構造となっている。シリコンが塊になると木目に似た層ができるので、その目の方向が異なる2枚を貼り合わせることで、強度や弾力の均一化を図っているのだ。また、脱進機には大きな温度変化にも耐えうるという潤滑油を厳選し使用。より効率を高めている。
このムーブメントは、平均日差-4/+6秒という高精度を実現しており、さらに素材に特殊合金を使用するなどもあって、従来の時計の25倍という1500ガウスの耐磁性をも得ている。さらに安定したトルクによって、パワーリザーブは約120時間、5日間の持続を実現。これは既存モデルの約3倍である。
「クリフトン ボーマティック」元年である2018年は、1モデルのみだったのだが、今年は美しいブルーのグラデーションモデルが加わり、しかもレザーストラップのモデルだけではなく、ブレスレット仕様もラインナップされた。さらにホワイトダイヤルのピンクゴールドケースも追加されるなど、着実な広がりをみせている。
“ボーマティック”という新しい機能を加えたボーム&メルシエは、さらに魅力的なブランドへステップアップした。それが時計の心臓でもあるムーブメントだけに、その広がりは計り知れない。今後、その動向に目が離せないブランドのひとつである。