ロールス・ロイスが、同社のSUV「カリナン」の大幅な刷新を発表したのが2024年5月のこと。「カリナン・シリーズII」と名付けられた最新モデルが、このたび日本上陸を果たした。

若きロールス・ロイス

世界中のマーケットにSUV旋風が吹き荒れるなか、大トリを飾るかのごとく2018年に登場した初代カリナンは、ロールス・ロイス初のSUVとして多くの富裕層から注目を集めた。同社によると、当初はショーファーカーとしての需要も想定していたが、予想に反して多くのオーナーが自ら運転を楽しむようになったという。

実際、カリナンがデビューした頃は、自らステアリングを握るオーナーは70%未満だったが、現在ではほとんどのオーナーが自身でカリナンを運転し、ショーファーを利用するのは10 %を下回る。

この変化は、ロールス・ロイスの顧客層の若年化とも相まって、カリナンをブランド内で最も需要の高いモデルへと押し上げた。実際、カリナンの登場以降、ロールス・ロイスの平均顧客年齢は2010年の56歳から現在の43歳へと大幅に低下しているという。

このような顧客層の変化は、ラグジュアリー市場全体の傾向を反映しているといえるだろう。従来の富裕層に加え、IT産業などで成功を収めた若い起業家たちが、新たな顧客として台頭してきているのだ。彼らは従来の高級車の概念にとらわれず、自身のライフスタイルに合った、より現代的で機能的なクルマを求める傾向にある。

カリナン・シリーズIIへのビッグマイナーチェンジは、「マジック・カーペット・ライド」など、カリナンの本質的な要素を忠実に受け継ぎながらも、こうした顧客動向の変化を反映したものとなっている。

パンテオン・グリルが光る!

特に注目すべきポイントは、若い顧客層を意識したエクステリアデザインのアップグレードと、最新のデジタルインターフェイスの採用、そして新しい素材や、現代的な伝統工芸技法を用いたインテリアだ。

まずエクステリアでは、フロントグリルがロールス・ロイス伝統の「パンテオン・グリル」を踏襲しつつ、イルミネーション機能を追加。さらに、グリル上部に水平のクロームラインを配置することで、フラッグシップモデルのファントムとの繋がりを強調している。

ヘッドライトは、垂直方向に伸びるデイタイム・ランニング・ライトを採用。これは都市の摩天楼をイメージしたデザインで、若年層顧客へのアピールを狙ったものと見られる。

サイドビューでは、フロントフェンダーからリアホイールに至るラインに微妙な変化が加えられ、全体的なシルエットに動きを持たせている。リアエンドには、ポリッシュ仕上げのステンレス製エグゾーストサラウンドが配置され、力強さを表現している。足元にロールス・ロイス初となる23インチホイールを採用したのもトピックだ。

ちなみにボディサイズは、全長5,355×全幅2,000×全高1,835㎜とほぼ先代を踏襲している。

あちこちにデジタルが融合したインテリア

インテリアは、デジタルと物理的なクラフツマンシップが融合したデザインが特徴となっている。その象徴ともいえるのが、新開発のデジタルインターフェース「SPIRIT」を搭載したガラスパネルのフェイシアだ。

常時表示されるセントラル・インフォメーション・ディスプレイが運転席正面のインスツルメント・クラスターパネルと、フェイシア中央に配され、そこから「SPIRIT」にアクセスできる。ちなみに「SPIRIT」はスペクターで登場したシステムで、カリナン・シリーズIIがエンジン搭載車では初採用となる。

助手席前には、レーザーエッチング技術を用いた「イルミネーテッド・フェイシア」を配置。夜空の星や都市の摩天楼をイメージしたグラフィックが浮かび上がる仕掛けだ。さらに、ロールス・ロイス車では初となる「スピリット・オブ・エクスタシー・クロック・キャビネット」を設置。アナログ時計とともに、ライトアップされたスピリット・オブ・エクスタシー像が収められている。

内装材にも新しい試みが見られる。「グレー・ステンド・アッシュ」と名付けられた新しい木材は、一本一本厳選された天然木材を染色し、微細な金属粒子を加えることで独特の輝きを実現している。

また、レザーシートには「プレースド・パーフォレーション」と呼ばれる新技術を採用。最大10万7000個の小さな穴を施すことで、ロールス・ロイスのホームタウンであるグッドウッド上空の雲をイメージしたアートワークを表現している。

テキスタイルにおいても新しい試みが見られる。竹から作られたレーヨン生地「デュアリティ・ツイル」は、ロールス・ロイスの創業者ヘンリー・ロイス卿が冬を過ごしたヴィラ・ミモザに隣接する、コート・ダジュールの「地中海の庭園」の竹林からインスピレーションを得て開発された。この素材には、創業者のイニシャル「RR」を抽象的に表現したモチーフが織り込まれている。

テクノロジー面では、ロールス・ロイスの会員制アプリ「Whispers」との連携が強化された。アプリを通じて目的地を車両に送信したり、車両の位置確認や施錠管理を行ったりすることが可能になっている。

リアシートのエンターテイメントシステムも大幅に進化。最大2台のストリーミングデバイスを接続できるほか、Wi-Fiホットスポット機能も搭載された。さらに、18スピーカー1300ワットの最新オーディオシステムを採用。車体のアルミニウム製シル部分を共鳴室として活用し、車両全体をサブウーファーとして機能させるという革新的な設計も取り入れられている。

エンジンは、6.75リットルV12ツインターボを継続採用。最高出力571PS、最大トルク850Nmを発生し、0-100km/h加速は4.9秒を記録する。

日本での発表に際しては、カリナン・シリーズIIのビスポークモデルも展示された。ボディカラーには新開発の「エンペラドール・トリュフ」を採用。ブラウンの大理石からインスピレーションを得たこの色は、ガラス粒子を練り込んだラッカーと「クリスタル・オーバー」仕上げにより、朝日に輝く新雪のような繊細な輝きを放つという。

ロールス・ロイス・モーター・カーズ アジア太平洋リージョナル・ディレクター アイリーン・ニッケイン氏とカリナン・シリーズIIのビスポークモデル

ジャパンプレミアの会場で壇上に立った、ロールス・ロイス・モーター・カーズ アジア太平洋リージョナル・ディレクターのアイリーン・ニッケイン氏は、「日本はアジア太平洋地域で最も重要な市場の一つ」と述べ、新型カリナンへの期待を表明した。

カリナン・シリーズIIは、2024年第4四半期から順次納車が開始される予定だ。同時に、よりスポーティな「ブラック・バッジ・カリナン・シリーズII」も展開されるという。