文=福留亮司

フリーホイールのスケッチ。これをもとに芸術的で美しいモデルがつくられていく

技術力、芸術性が問われる

 優れたモノやパフォーマンスを評価する場合、概ね技術力、芸術性が問われる。わかりやすい例が、フィギュアスケートだ。このスポーツは、素晴らしいエンターテインメントであり、オリンピック種目にも選ばれているコンペティションでもある。そして、競技の採点はテクニカルインプレッションとアーティスティックインプレッションの両面から行なわれるのだ。

 その両面を兼ね備えてこそ、称賛に値するということなのだろう。モノを評価する場合、これはとてもいい基準だな、と思う。

 なぜ、そんなことを書いたのかというと、時計の名門ユリス・ナルダンが発表した「エグゼクティブ フリーホイール」を見たときに、どう評価すればわかりやすいのか、と考えたからである。

 この「エグゼクティブ フリーホイール」は、見ての通り普通の腕時計とは違う。オープンワーク化されたダイヤル上に歯車が舞ってるかのように見える、独特のデザイン、構造を持っている。これによって、リュウズを巻くことによって生じる主ゼンマイの巻き上げや時刻合わせ時の歯車の動きを目の当たりにし、楽しむことができるのだ。

 さらには、パワーリザーブインジケーター、それからトゥールビヨン機構も備えており、それらの動きも逐一見ることができる。時間を知る、という時計における唯一無二の機能はしっかり担保され、芸術的ともいえる独創的なデザインで表現されているのである。

 独創的な造形といい、オープンワークで構造を見せられる技術といい、ユリス・ナルダンが1846年の創業以来、永きに渡って受け継がれてきた時計製造への絶対的な自信があってこそのモデルといっていいだろう。

 それは受け取る側、つまりユーザーからの信頼があってこそのものでもある。ユリス・ナルダンは、創業当初からマリンクロノメーターの開発に情熱を注ぎ、その精度と信頼性で、この分野において不動の地位を獲得している。同社のマリンクロノメーターが多くの海軍や造船所に正式採用されていたことからも、その凄さがよくわかる。

 近年においても、積極的な投資をおこなってきており、2001年には早くもシリコン製の脱進機を用いた「フリーク」を発表。現在多くのブランドが取り組みはじめたシリコンテクノロジー導入の先鞭をつけている。

 

ダイヤルと香箱カバーに異なった素材

 そんなユリス・ナルダンが発表した限定モデル「エグゼクティブ フリーホイール」には、4つのモデルがある。それぞれダイヤルと香箱カバーに異なった素材が採用されている。4つのモデルとその特徴を紹介しよう。

 

「オスミウム:天空の眺め」
ダイヤルに、世界でもっとも重い金属であり、もっとも密度が高く安定した元素でもある“オスミウム”を使用。オスミウムは、白金族の合金に含まれる微量元素であり、超硬度であることが求められる製品に使用されるという。ケースは、ホワイトゴールド製。精悍かつ上品な組合せだ。

スペック: オスミウム 1760-176LE/OSM  手巻き、18KWGケース、44㎜径、1184万円(18本限定)

「アベンチュリン:星々を巡る冒険」
星が煌めく夜空を思わせるアベンチュリンダイヤル。アベンチュリンは半透明クォーツの一種で、“冒険を始めよう”という意味もある。過去には「ブルーアベンチュリン チンギス・カン 789-80」にも使用しており、航海に欠かせなかったマリンクロノメーターの旗手でもあったユリス・ナルダンとは親和性のある素材である。
アベンチュリン 1766-176LE/AVE
手巻き、18KRGケース、44㎜径、1147万円(18本限定)

スペック: アベンチュリン 1766-176LE/AVE 手巻き、18KRGケース、44㎜径、1147万円(18本限定)

ストロー・マルケトリ(藁象嵌):現代にもたらされた伝統技法
17世紀の修道院の修道女たちが行っていた高度な技法であるストロー・マルケトリをダイヤルに採用。ダイヤルデザインは、黒く染めた輝く藁を使用。正確に割かれた藁は繊維染料で染めた後、ダイヤルと香箱カバーに取り付けられる。パターンデザインで精度を追求する独特な技法が、途絶えることなく継承されていくことを願う、ユリス・ナルダンの想いが込められた素材である。

スペック: ストロー・マルケトリ 1766-176LE/STRAW 手巻き、18KRGケース、44㎜径、1147万円(18本限定)

CARBONIUM®ゴールド:大胆なエレガントさの研究
航空機グレードのカーボンファイバーから成るCarbonium®は、アルミニウムの約半分の軽さ。このカーボンに樹脂を含浸させた複合材は生物由来の成分から作られており、従来の炭素複合材よりも環境への影響がはるかに小さくなる。Carbonium®ゴールドは、熱硬化性マトリックスでカーボンフィラメントとゴールド粒子を密に融合させたもので、その結果として生じたゴールドのような模様は、とても美しい。

スペック: CARBONIUM®ゴールド 手巻き、18KRGケース、44㎜径、1147万円(18本限定)

 この4モデルは、個性的かつ稀少な素材で構成されているが、それらを見せる風防は同じで、ダイヤル面に加え、ケースサイド側からも鑑賞を可能にするボックス型のサファイアガラスを採用している。ラウンドした透明感あるクリスタルサファイアガラスは、オープンワーク化されたダイヤルをより美しく見せてくれている。

 「エグゼクティブ フリーホイール」は、確かで高度な技術と目を奪われる芸術性を兼ね備えた金メダル級の腕時計だ。そして、それぞれ18本という稀少性もある。製品ではなく、あえて作品と呼びたいモデルである。