幼少期の努力が未来の成功へとつながる~遠藤航×中川将吾(整形外科専門医)対談
「遠藤航カップ」のサッカー教室、サイン会などが終了した後に、子どもの体力の低下やスポーツをする子どもの成長期特有の問題、ケガなどについて、問題意識をもつGENOVAからの提案で、遠藤航選手と整形外科専門医・中川将吾先生の対談が実現した。子どものスポーツと健康について、どのようなことが語られるのだろうか。
休みの日は常にボールを蹴っているサッカー少年
中川先生(以下、中川):遠藤選手がサッカーを始めたきっかけについて教えてください。
遠藤航(以下、遠藤):父親と一緒にサッカーすることも多かったですし、小学校1年生にあがるタイミングで母親に「サッカーをやってみる?」と聞かれて「やりたい」ということで始めたのがきっかけです。
中川:どのようなサッカー少年でしたか?
遠藤:とにかくサッカーが好きだったんで、休みの日は常にボールを蹴っていました。遊びの延長線上でサッカーを習ってた感じです。
中川:他のスポーツに興味は持ちましたか?
遠藤:一時期は野球をやってました。スイミングも習っていました。野球は父親とやってた時期がありましたし、あとは遊びでパターゴルフとかは好きでやってましたね。
中川:サッカーだけではなく、いろいろなスポーツを経験されたのですね。幼少期から運動神経はよかったと思いますか?
遠藤:足は速かったと思います。
中川:柔軟性はどうでしたか?
遠藤:身体はそんなに柔らかくなかったので、マット運動が苦手でした。運動神経はどのように発達するのでしょうか?
中川:運動神経の発達には、たくさんの感覚を入力することが大切です。歩行を例にすると、最初からうまく歩ける人はいません。歩行の上達のためには、動いた時に感じたズレを少しずつ埋める作業を繰り返す必要があり、それが運動神経の発達につながると考えられています。
遠藤:いろいろなスポーツを経験することは、運動神経の発達にもつながるということですか?
中川:はい。まずはやってみて、何度も修正を繰り返すことが運動神経を育てることにつながると思います。ただし、特定のスポーツだけ行っていると、同じような動きを繰り返すことで姿勢や筋肉のつき方に偏りが生じ、ケガや発達の支障につながることもあるので注意が必要です。
成長期のスポーツ障害として代表的な疾患
遠藤:具体的にはどのような問題がありますか?
中川:成長期のスポーツ障害として代表的なオスグッド病やシーバー病は、急激な成長以外にも体の柔軟性が低下している子どもに起こりやすいと考えられています。遠藤選手はスポーツに携わっていく中で、ケガで困った経験はありますか?
遠藤:足首の捻挫や打撲で痛めたことはありますが、幸いにも大きなケガはありませんでした。中学生の1年間で身長が10cm伸びてオスグッドのような成長痛は経験したことはあります。
中川:オスグッドは成長期に起こりやすいですからね。幼少期にケガしないように意識していたことはありますか?
遠藤:小学生までは特に意識していませんでした。ウォーミングアップをしていたくらいですね。
中川:遠藤選手が日本代表や世界で活躍するプレイヤーへとたどりつくターニングポイントとなったのは、いつ頃だと思いますか?
遠藤:高校に進学したタイミングですね。そこで湘南ベルマーレのユースチームに入りました。その頃からプロのサッカー選手を身近に感じ、夢が目標に変わったターニングポイントだった気がします。
中川:違いを肌で感じることはありましたか?
遠藤:ユースはセレクションで選ばれた選手の集まりなので、入って初めての練習では、選手のレベルの高さに衝撃を受けたことを覚えています。
中川:サッカーを通じて幼少期に挫折感や悔しさを感じた瞬間があれば教えてください。
遠藤:小学生の頃に横浜Fマリノスのセレクションに行って落ちた経験や大会で負けて悔しさを感じたことはありますが、挫折感はありませんでした。
中川:周囲の選手と比較することはありましたか?
遠藤:中学時代には県の選抜に入るチームメイトもいたので、すごいなと思いましたが、挫折感はなかったと思います。
根本はサッカーが好きだということ
中川:そう考えられたのはどうしてなのでしょうか?
遠藤:サッカーが好きだという思いが根本にあったからです。
中川:大切なことですね。心理的なサポートで頼っていた人がいれば教えてください。
遠藤:サッカーに関する話をしていたのは父親だと思います。練習や試合の振り返りをしてくれたのも父親でしたから。
中川:サッカーを始め、続けてこられたのはお父さまの存在が大きかったのですね。お父さまからもらった言葉で印象に残っているものはありますか?
遠藤:マリノスのセレクションに行く際に「落ちると思うよ」と言われました。多くを語る父親ではありませんでしたが、自分の実力をよく分かってくれて、どんな言葉をかけたら良いか考えていたのだと思います。
中川:良いお父さんですね。運動を続けることで、成長を感じる瞬間はありましたか?
遠藤:はい。リフティングの回数など、ちょっとした目標の達成が成長を感じる瞬間でした。
中川:友達はサッカー関係の友達が多かったですか?
遠藤:ふだんからチームメイトと遊ぶことが多かったですね。
中川:同じ目標に向かう友達と一緒に遊んだり勉強したりすることで、身体だけでなく心にも良い影響があると思います。それも幼少期におけるスポーツのメリットですね。努力を続けられるポイントは何ですか?
遠藤:私はとにかくサッカーが好きで、努力だと思っていませんでした。スポーツに限らず努力を続ける1番のポイントは、それだけ好きで続けられるものを見つけることだと思います。
ユースチームにはフィジカルコーチがいた
中川:また幼少期に戻りますが、その時代に体力づくりを意識したのはいつ頃からですか?
遠藤:高校に入ってからです。小学生、中学生の頃は体格がいい方だったので。でも高校生でユースに入ると高校3年生で体格もガッチリした人がいましたので。ユースチームにはフィジカルコーチもいましたので、食事や筋トレなど、身体づくりを真剣に考えるようになりましたね。
中川:お家の中で、食事で気を付けていたことはありますか?
遠藤:なんでも食べろとは言われてました。なので、とりあえず何でも食べていました。牛乳も好きなので、それこそ1日1Lぐらいは普通に飲んでいましたね。牛乳はいいですか?
中川:子どもは水分が不足しやすいので、牛乳を飲むことは良いと思います。好みで食事が偏ってしまうことも多いので、バランスよく栄養を摂取することが大切です。幼少期の体力づくりが今のキャリアに役立っていると感じることはありますか?
遠藤:それこそ骨折をしたことがないので、牛乳は飲んでいてよかったと思います。それから、小学生や中学生時代に毎日のようにサッカーをやっていたことや、ユース時代の筋トレは体力づくりのベースになっているのでやっておいてよかったと思います。あと好きで毎日サッカーをやっていて、基礎体力がついたかなとは思っています。
中川:知らず知らずのうちにやってたんですね。睡眠についても教えてください。
遠藤:中学生ぐらいまでは夜の9時くらいには寝ていたので、結構寝ていましたね。
中川:幼少期の体力づくりには睡眠で分泌される成長ホルモンが重要だと言われています。現代の子どもたちはテレビやスマホなどの影響で睡眠時間が不足していると言われているので、注意していただきたいですね。
遠藤:僕の子どもも夜の9時くらいには寝せるようにはしています。まとまった休息も大事ですよね。
子どもにとっては何にもしない休息も大事なこと
中川:そうですね。そう感じた理由はありますか?
遠藤:日本では夏休みにも合宿があると思いますが、そんな暑い時期にサッカーする必要あるの?と思っちゃいます。ドイツでは1~2カ月のまとまった休みを取ることが多いんです。その期間に身長が伸びたり、身体が成長するという話を聞いたので、子どもにとって何にもしない休息も大事なんじゃないかなと感じました。
中川:その通りですね。日本ではチームに合わせて休みが取れないことも多いようです。指導者の中にも「練習は毎日やるもの」「休んだら弱くなる」という考え方が根強く残っており、休まずに疲弊してケガするパターンが多いと感じます。
遠藤:ケガしないようにしたいですよね。
中川:はい。チームとして動くのは週3日以内にして適度に休息するという意見も増えてきているので、そういう考え方は広まってほしいですね。現在の生活習慣についても教えてください。
遠藤:食べる量は昔よりも結構減ってると思います。バランス良く摂るというのと品数を増やすことは意識していますが、そんなにストイックに管理しているわけではなく、食べたいものを食べています。
中川:睡眠はどのくらいとれていますか?
遠藤:結構寝ていて9時間くらいです。寝ないとやっていけないです。練習や試合が続くシーズン中は、7~8時間の睡眠が続くと疲れを感じますね。
中川:過去の経験を通じて現在の子育てにおいて気を付けていることはありますか?
遠藤:睡眠は大事にしていて、下の子はどうしても上の子に就寝時間を合わせちゃうので。そうすると下の子が寝る時間も遅くなるので、長男を早く寝かせるように工夫しています。今では長男も夜9時に寝て朝7時半に起きる習慣ができているのでいいかなと思います。
最低限水分量には気を付けたい
中川:食事についてはいかがですか?
遠藤:好き嫌いもあるので、いろいろ食べるように言っています。あとは最低限、水分量には気を付けるようにしています。
中川:一番大事なことだけ守ってくれよって感じですね。牛乳は飲んでいますか?
遠藤:はい。そのまま飲んだり、朝ごはんでシリアルにかけたりするので冷蔵庫には常に入っています。
中川:良い習慣だと思います。朝食を食べないことや8時間未満の睡眠は、子どもの体力低下につながると考えられているため、生活習慣を見直すことも大切です。
遠藤:食事と睡眠は大切ですね。
中川:スポーツに関してはどういった指導や環境づくりをしていますか?
遠藤:大切にしているのは、子どもにやりたいことをやらせてあげるということです。環境づくりとしても、運動をたくさんする学校に通っています。
中川:学校の授業や課外活動で運動するのですか?
遠藤:午後1時半には授業を終えてクリケットやラグビーの試合をしているようです。
中川:日本の学校にはない環境ですね。スポーツは勉強に向かう体力や集中力を養うことにもつながるので、良い環境だと思います。
遠藤:親としては、環境づくりも大切ですね。
中川:はい。親の役割は環境を用意したうえで、子どものやりたいことをサポートすることだと思います。最後に遠藤選手からスポーツの大切さについてメッセージをいただけますか?
遠藤:スポーツは子供にとってストレス発散にもなるし、健康に良いことは間違いありません。親ができるだけいろんなスポーツをやらせてあげるとか、環境をつくってあげるのは大事なことだと思います。僕はサッカー選手なので、サッカー選手になりたい子どもが増えるとうれしいのですが、1番大切なのは楽しんでスポーツをやってくれることだと思います。親としては子供がいろいろなスポーツを経験できるようにサポートしていきたいと感じました。