情熱の緑、静かなる赤
「ワガママ言って、特殊色のモントリオール グリーンを希望したのは、ここで撮りたかったからです」
トナーレに満載した機材の中から酷暑には不似合いなウインドブレーカーを取り出して阿部さんはヤブの中に入っていく。
緑に緑。トナーレ PHEVのエコロジカルさ、パワー、そして情熱を表現している、などと説明してしまうのは野暮だろうか。
「こういう写真は自動車媒体では採用されないものですが、今回の僕の一枚はきっとこれです」
と阿部さんが満足している頃、三田村さんも自分らしい一枚を撮影していた。
やはり自然と融合したトナーレの姿。しかし、三田村さんはまだ満足していない様子……
「これはクルマの写真ということをあえて一旦忘れて僕の好きなテイストです。一方で僕は赤いクルマにはちょっとこだわりがあるんですよ。これまで乗っているクルマも全部赤です。しかも、ワインレッド系というかマルーンカラーというか、そういう赤よりも原色の赤が好きなんです。このトナーレのアルファ レッドは光によって色々な表情を見せてくれるので、もう少し太陽が昇ったらバシッと光が当たった色も表現したいですね」
普段、口数の少ない三田村さんは、珍しく熱っぽく語る。どうやらアルファ レッドが彼の心に火をつけたようだ。
そして描き出されたのがこの複雑性に満ちたアルファ レッドだった。
つかの間のオフを楽しむ
写真で生きる二人にとって、オンとオフはオフィスワーカーのそれとはまったく異なる。日の出前から撮影を始めて、5時間ほどが経過。
時計はまだ12時前だが、午前の光での撮影は概ね終了。もちろん、この先、今日撮影した写真の確認や仕上げの仕事はあるものの、ここからはつかの間のオフタイムになる。
そして、だからといってアクアラインを通って家に帰ったりはしない。せっかくのトナーレとの時間をもっと楽しもう、撮影のチャンスはまだまだあるはずと、二人は金谷港からフェリーに乗り久里浜港へと向かったのだった。
「横須賀の方って、そんなにクルマの撮影ができる場所がなくて僕もあんまり知らないんですよ」
少し不安そうに阿部さんが言う。
「それでいったら僕なんて仕事は室内が多いし、オフはサッカーが好きなので、サッカーしに行くことはありますが、それ以外は子供と遊んでいますから、もっと知らないとおもいますよ」
「今日はいいところに出会えるといいなぁ……あ、横須賀美術館のそばにいいカフェがあるんですよ。ちょっと行ってみましょうか?」
そんな会話をしながらも二人はカメラを手放さず、フェリーからの東京湾の風景を切り出していく。
「こうやってカメラについている画面で見ているときは、うまく撮れたなぁとおもっていても、家でちゃんと見てみると、そうでもないってことがよくあるんですよ」
フェリーが久里浜港に迫った頃、三田村さんは撮影データを見ながらそう言った。
「ありますね。フィルムの頃なんて、そもそも見えなかったしなぁ……」
「僕はフィルム時代はあんまり経験していないけれど、クルマを撮るときのコツってあるんですか?」
「うーん。細かいことを言えば、背景とか映り込みとか色々とありますけれど、僕はそういうのって最終的にはあんまり関係ないとおもってます。撮る人が撮る対象に向けている気持ちが写真に表れる。今なんてスマホにすごくいいカメラがついていますから、プロだアマチュアだっていっても、機材で大きな差はつかないとおもうんですよね」
と言いながら、三田村さんの写真が気になってしょうがない阿部さんと、阿部さんの話に真剣に耳を傾ける三田村さん。二人と2台のトナーレが久里浜港に到着した。