文=のかたあきこ 写真=湯之島館、宮川透、のかたあきこ

杉木立に立つ昭和6年築の本館は木造3階建ての堂々たる佇まい

延べ6万人が4年をかけた名建築の宿

 JR高山本線下呂駅から送迎車で5分ほど。「下呂富士」と呼ばれる山の中腹に、敷地約5万坪の宿が現れる。

湯之島館 玄関

 「湯之島館」の創業は昭和6年。杉木立に立つ本館は、重層する入母屋屋根と黒漆喰塗りが目を引く木造3階建てである。延べ6万人が4年をかけて建てた宿は、国登録有形文化財に指定される。

昭和初期の建築を巡りながら館内にある「山の足湯」で休憩

 長い廊下で結ばれた本館客室は様々なタイプがあり、建築を愛でる美術館のようだ。例えば昭和33年に昭和天皇皇后両陛下が宿泊された「七重八重之間」は、創業時につくられた最上級特別室。本間31畳に控えの間、廻り廊下などを備える優雅な空間だ。

昭和天皇皇后両陛下がお泊まりになられた「七重八重之間」

 湯之島館はかつて、一大リゾートとして名を馳せた。温泉施設はもちろん、ビリヤード場やバー、舞踏場、テニスコートなどが備わり、連泊客が集う社交場だった。往時を知る関係者は「殿方はビリヤードやパイプを楽しみ、奥様方はダンスを踊ったり、子供達同士は敷地の森で遊んだり賑やかでした」と語る。

ビリヤード場やバーをはじめ、パブリックスペースが充実