取材・文=吉田さらさ 

三嶋大社 本殿

源頼朝が源氏再興を祈願

 今年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』は、血なまぐさくもなかなか面白く、近年の大河の中ではもっとも気に入って見ている。本来の主人公は北条義時だが、特に前半部では、大泉洋さんが、ある時は飄々と、ある時はダークに演じる源頼朝の存在感が際立っていた。今回は、その頼朝ゆかりの三嶋大社を訪ねてみよう。

 静岡県三島市に鎮座。地名は「島」の字を使い、社名は「嶋」を使う。創建の時期は不明だが、奈良時代、平安時代の古書にも記録が残り、古くより神格の高い社としてこの地にあったことがわかる。御祭神は、オオヤマツミノミコトとツミハヤエコトシロヌシノカミ。この二柱を総称して「三嶋大明神」という。

 オオヤマツミノミコトは山林農産の守護神、ツミハヤエコトシロヌシノカミはオオクニヌシノミコトの息子のコトシロヌシノカミの別名で、恵比寿神と同じ神とも言われ、商・工・漁業者の崇敬を受けている。つまり、三嶋大明神は、あらゆる産業を司る最強の神である。

 中世以降は武家の崇敬も集めるようになり、伊豆に流されていた源頼朝は、こちらで源氏再興を祈願して旗揚げし、天下統一に成功。以降、この神社はますます栄えることとなった。

 毎年8月中旬に行われる三嶋大祭りでは、頼朝の旗揚げの様子を再現する『頼朝公旗揚げ行列』が行われるのが恒例で、今年2022年は『鎌倉殿の13人』で頼朝役を演じた大泉洋さんをはじめ、数人の出演者がそれぞれの役柄に扮して行列を先導した。コロナ禍で中止が続き、3年ぶりの開催だったこともあり、沿道にはたくさんの人が詰めかけて俳優さんたちに声援を送ったようである。

 

頼朝と政子が休息したとされる「腰掛岩」も

 境内は広々とし、大鳥居から本殿までが一直線につながっている。大鳥居をくぐったら、まず左手の「たたり石」に注目。たたりとは神仏の祟りという意味ではなく、糸のもつれを防ぐ道具のこと。鳥居の前の道は旧東海道で人の往来が激しかったため、交通整理のためにこの石が置かれたという。

三嶋大社 たたり石

 その先は神池。頼朝が、ここで放生会を行ったとの伝承がある。放生会とは、殺生を戒めるために捕獲した魚や獣を放つ仏教由来の儀式のことだ。池の真ん中にある厳島神社は北条政子が勧進したと伝わる。

三嶋大社 厳島神社 写真=フォトライブラリー

 立派なしめ縄がかかる総門をくぐると、右手に宝物館がある。北条政子が奉納した国宝『梅蒔絵手箱』は、模造復元品が常設で展示されている。その奥は神鹿園。大正時代に奈良の春日大社から贈られた雌雄8頭の神鹿の子孫たちが暮らしている。

 参道に戻ると、神門の手前に「腰掛石」がある。頼朝と政子が源氏再興の祈願に来た際に休息した場所とされ、二つあるうちの左の石に頼朝、右に政子が腰掛けたとのこと。左側の石の方がずっと大きく立派で、史上最強の尼将軍も、夫の生前は控えめな妻だったのだなと思うと、何だか微笑ましい。

三嶋大社の神馬舎と腰掛石 写真=フォトライブラリー

 その先は舞殿と本殿と、立派な建物が続く。お参りを済ませたら、末社の水神社にも立ち寄ろう。こちらは知る人ぞ知るパワースポットで、社の脇に、境内の井戸から湧水を引いた「生玉水」がある。この湧水は富士山からの伏流水、富士山の雪解け水が長い歳月をかけて山麓のさまざまな場所に湧き出して来る貴重な水だ。飲むこともできるので、汲みたい方は、ペットボトルなどを持参するとよい。

三嶋大社 舞殿 写真=アフロ

 富士山の神と言えばコノハナサクヤヒメ。この女神は三嶋大社の祭神のオオヤマツミノミコトの娘とされるので、この水は、娘から父への贈り物とも言える。

 富士山の伏流水は、三嶋大社のお膝元の三島の街にも、大きな恵みをもたらしている。清流柿田川などの湧水群が織り成す水辺の風景である。柿田川湧水群は三嶋大社から少し離れているが、源兵衛川湧水群なら三嶋大社から徒歩10分くらいで行ける。清流を眺めるカフェなどもあるので、ゆっくり散策をしてみるのはどうだろう。きれいな水の中でしか咲かない幻の花、三島梅花藻を見ることもできる。シーズンは5月から9月くらいだ。

柿田川湧水群 写真=アフロ

 湧水には、さらに素晴らしい恩恵もある。三島の名物はうなぎだが、これはうなぎが獲れるという意味ではない。富士山の伏流水の中でうなぎを4~5日泳がせることで生臭さや泥臭さが消え、余分な脂肪分が燃焼されるため、うなぎがより美味しくなるのだ。人気店は大行列になるので、お出かけ計画は綿密に立てよう。

「うなぎ 桜家」のうなぎ重箱