文=渡辺慎太郎

服飾の世界で扱われる素材をインテリアに採り入れた特別仕様車の“メルセデス・マイバッハ・オート・ヴォワチュール”。フェイクファーやブークレーなどがトリムに採用されている

デザインは購入動機の第1位

 自動車のデザインは、機能的に優れているものや誰が見ても美しいと思うものもあるいっぽうで、結局のところは個人の好き嫌いよって選ばれる傾向にあります。自分なんかの選択肢には到底入ってこないようなデザインのクルマでも、それが月に1万台近くコンスタントに売れていると聞けば「そういうものなのか」と(納得はできなくても)受け入れざるを得なかったりします。

 依然として、デザインはクルマを購入する際の優先順位の1位に掲げられているだけに、それを生み出す自動車メーカーのデザイナーやデザイン部門の責任は重大で、日々の精神的重圧は想像に難くありません。マンネリを回避しつつトレンドやモードを取り込みながら、それでも歴史やヘリテージの延長線上に収まるデザインを創出するために彼らはどんなことをやっているのか。それを垣間見る機会として、メルセデス・ベンツは定期的に“デザイン・エッセンシャルズ”と呼ぶデザインのワークショップを開催しています。

 コロナ禍により3年ぶりの実施となった今回のテーマは“The Art of Creating Desire”。日本語に訳すのが難しいのだけれど、メルセデスによれば“Creating Desire”とは「世界でもっとも魅力的なクルマを作るという願望」だそうで、その芸術性のようなニュアンスでした。

 

服飾の世界では珍しくない素材を車内に

 フランス・ニースに拠点を構えるメルセデスのデザインセンターで、いくつかの作品がお披露目されました。“メルセデス・マイバッハ・オート・ヴォワチュール”は、服飾のオートクチュールにインスパイアされた特別仕様車で、ブーケやブークレー、フェイクファーといった服飾の世界では珍しくない素材を車内にあしらう試みが特徴だそうです。

若くしてこの世を去ってしまったデザイナー、ヴァージル・アブローとの共作となるデザイン・コンセプト“プロジェクト・マイバッハ”は、将来のGクラスの可能性を探るデザイン・コンセプト。ふたり乗りの2ドアクーペというEVのSUVである

 ドアポケットからフェイクファーが見える光景は、確かにこれまでの自動車内装ではみたことがありません。“プロジェクト・マイバッハ”と“マイバッハ・バイ・ヴァージル・アブロー”は、ストリートファッションのハイブランドである“オフホワイト”のデザイナー、故ヴァージル・アブローとのコラボレーションにより生まれたモデル。“プロジェクト・マイバッハ”は未来のGクラスの可能性を探るデザインコンセプトで、全長が約6mもあるのにふたり乗りの2ドアクーペで、パワートレインはEVという斬新なSUVです。“マイバッハ・バイ・ヴァージル・アブロー”は、マイバッハのセダンをベースに“プロジェクト・マイバッハ”の色使いなどを採り入れた特別仕様車です。

 そして“デジタル・ラグジュアリー”と称して発表されたのが、メルセデスのオリジナルによるデジタルアートグラフィック。今後、車内にはモニターが増えサイズも拡大化することが予想され、そこに自宅に絵画を飾るように好みのデジタルアート作品を映し出すという提案です。

車内のモニターに映し出すオリジナルのデジタルアートを提供する予定もあるという。自宅に飾る絵画のように楽しむというアイデアを、メルセデスは“デジタル・ラグジュアリー”と呼んでいる

 これを機に、LVMH/リシェモン/OTBグループ/プラダが参画する“オーラ・ブロックチェーン・コンソーシアム”の創設メンバーとして自動車メーカーとしては唯一、メルセデスがその名を連ねることもアナウンスされました。ファッション業界のコングロマリットとの提携という新しい事業にも今後は積極的に参画していくそうです。