文=渡辺慎太郎

レヴァンテよりひと回り小さいマセラティの新型SUV、グレカーレが3月22日に発表となった。日本導入時期は現時点では未定

マセラッティの多くは風の名前 

 マセラティの車名には“風”の名前を由来とするものが多いのをご存知でしょうか。最初にそれが名付けられたのは1963年にデビューしたミストラル。「フランスの南東部に吹く風」にちなんだものでした。

 現行モデルのギブリは「リビアの高地から地中海へ吹き込む風」、レヴァンテは「地中海からジブラルタル海峡へ吹き抜ける風」を意味するそうです。風の名前を由来にするなんてちょっとロマンティックな発想だと感心しますが、昨年紹介したミッドシップスポーツカーの車名はMC20で、風とはまったく関係ありません。こういう曖昧さも許されてしまうのは、イタリアメーカーの特権かもしれません。

ボディサイズやエンジンパワーなどから、仮想敵はポルシェ・マカンあたりとなる。スポーティなだけでなく、マセラティ独自のエレガンスさを備えている点がこのクルマの魅力のひとつ

 そんなマセラティの新たな風が発表となりました。地中海に吹く北東の風を意味する「グレカーレ」は、レヴァンテの弟分とも言うべきSUVです。日本仕様のレヴァンテGTは全長5020mm、全幅1985mm、全高1680mm、ホイールベース3005mm。対するグレカーレ(欧州仕様)は全長4846-4859mm、全幅1948-1979mm、全高1659-1670mm、ホイールベース2901mmなので、サイズ的にはレヴァンテよりも小ぶりとなります。ざっくり言えば、ボンネットが長くリヤにボリュームを持たせたスタイリングはレヴェンテに似ていますが、低い位置に構えるフロントグリルはMC20譲りとも言われています。

最近のクルマらしく、いくつものタッチ式液晶パネルが並び、機械式スイッチはほとんど見当たらない。シフトスイッチは、センターコンソールのふたつのモニターの間に配置

 インテリアは最近のクルマらしく、液晶パネルがいくつも並び、機械式スイッチがほとんど見当たらない風景となりました。マセラティは昔からアノログ時計にこだわりがあって、グレカーレもダッシュボード上部にアナログ時計が配置されています。しかしよく見るとこれも液晶で、アナログ時計のグラフィックが映し出されていました。グレカーレには音声認識機構も備わり、声を認知すると時計部分が光って反応する機能も備えているそうです。

マセラティは昔からアナログ時計にこだわってきたが、それもついに液晶のグラフィックとなった

ジュリアなどと同じプラットフォーム

 グレカーレのプラットフォームは「ジョルジョ」と呼ばれるもので、アルファ・ロメオのジュリアなどと共通です。ただ、マセラティがかなり本格的に手を加え、独自の乗り味を成立させたと言われています。駆動形式は4WDのみ。通常の前後駆動力配分は0:100とし、FRのスポーティなハンドリングが楽しめるいっぽうで、走行状況や路面の状態に応じて駆動力配分を最大50:50まで随時可変するシステムとなっています。これは基本的にアルファ・ロメオのステルヴィオやマセラティのレヴァンテなどと同一です。

 グレカーレには「GT」「モデナ」「トロフェオ」の3つのグレードが用意されています。GTとモデナはすでにギブリやレヴァンテにも搭載されているマイルドハイブリッド仕様で、2リッターの直列4気筒エンジンにBSGとターボとeブースターが組み合わされています。BSGは「ベルトドリブン・スターター・ジェネレーター」の略で、普通のクルマではスターターとジェネレーターが別々になっていますがこれをひとつに集約、エンジンを始動する時のスターターはクルマが動き出す際にモーターとして駆動力をサポートし、減速時にはジェネレーターが回生ブレーキとして発電して48Vバッテリーを充電する仕組みです。eブースターは電動式のコンプレッサーで、ターボと同じように排気ガスを使って過給する装置。ちょっとややこしいのですが、簡単に言うと、発進時にはスターターがモーターとして駆動力を上乗せし、1500-3000rpmくらいの範囲内ではeブースターが過給、それ以上の回転数になるとターボが本格的に稼働するといったシステムです。

 

複雑だが効率的なシステム

これにより、発進時から間断なくスムーズで力強い加速が得られるとともに、電気を使うユニットが介在することで燃費の向上も期待できるという複雑ですが効率的なロジックです。GTは300ps/450Nm、モデナは専用の制御プログラムの採用により330ps/450Nmを発生。2リッターの直4エンジンなのに3リッタ―並みのパワーを有するのもこのユニットの特徴のひとつです。

トップレンジのトロフェオには、MC20のV6の改良型が搭載される。その他の仕様は直4エンジンとモーターを組み合わせたマイルドハイブリッドシステムを搭載

 そしてグレカーレのトップレンジとなるトロフェオは3リッターのV6ツインターボエンジンを搭載。これはMC20が積む“ネットゥーノ”と呼ばれるスポーツエンジンの改良型とされています。530ps/620Nmというスポーツカー並みのパワフルな出力/ トルクを発生します。また、トロフェオは電制ダンパーと空気ばねを組み合わせたエアサスペンションを標準装備。モデナもオプションで選ぶことができますが、GTは電制ダンパーのみがオプションで選択可能です。

 パワートレインやサスペンションなどはレヴァンテと共有する部分も多いものの、グレカーレ独自のトピックは約1年後に“グレカーレ・フォルゴーレ”と呼ばれる仕様が追加されることで、実はフォルゴーレはマセラティ史上初となるSUVのBEVなのです。105kW/hのバッテリーを搭載し、800Nmという最大トルクを発生するそうで、マセラティも電動化の波にしっかり乗るべく次世代へ向けたポートフォリオを構築しているのです。