文=甲斐みのり 撮影=平石順一

尾道の小高い丘にあるロバ牧場

 お取り寄せをするときの、きっかけや基準は人それぞれあるだろう。

 私の場合、純粋に「こんなにステキなストーリーのあるものを食べてみたい」と食べものそのものに惹かれることもあれば、「いつかこの土地を旅してみたい」と生産地へ思いを馳せることもある。今回紹介するのは、そのどちらの思いも抱くもの。なんとも愛らしいロバの形のクッキーだ。

 昨年からにわかに、“クッキー缶ブーム”というのがおこっているそうで、私も複数の媒体で、取り寄せできるクッキー缶を紹介している。それを見た知人が、最近取り寄せたものとして教えてくれたのが、広島県〈尾道ロバ牧場〉のクッキー缶。ロバの絵の缶の中に、ロバと草のクッキーがきっちりと詰め込まれている様子を目にしただけで、ほっと心が癒された。

 尾道を舞台にした大林宣彦監督の映画作品が好きだった私は、車の免許を取り立ての大学生の頃、女友だち3人と交代で運転しながら、大阪から尾道まで車旅をしたことがある。そのときからすでに20年経ち、尾道にはさまざまな店が増えたと聞いてまた訪れてみたいと思っていたが、ロバ牧場なるものができたとは。

 ロバ牧場の牧場主である田頭さんは、学生時代に読んだスペインの作家、J・Rヒメネスによる散文詩「プラテーロとわたし」に共感し、いつかロバと一緒に暮らしたいと思い続けていたそう。その思いが叶ったのが10年ほど前。最初に1頭のロバを飼い始め、今では7頭のロバ家族、ヤギ、羊と、仲良く暮らしているという。 

 尾道の小高い丘の上でのロバたちとのほのぼのとした生活は、FacebookInstagramを通して拝見できる。ロバとの触れ合い体験などもおこなわれているそうだ。ウェブショップで販売しているクッキーやTシャツの一部は、動物たちのエサ代に還元されるといい、クッキーを通してロバたちと触れ合っているような気持ちになれる。

「ロバクッキーアート缶 2022」2800円(税込・送料別) 販売元=尾道ロバ牧場

 厳選した小麦粉と3種類のスパイスをブレンドしたロバのクッキーは、瀬戸内レモンやほろ苦いカカオを使ってアイシングがほどこされ、豊かな風味のアクセントに。草型のクッキーには野草のスギナが練り込まれ、自然に囲まれた牧場の景色が浮かんでくる。旅情をそそる缶の絵は、影絵作家・藤城清治さんによるもの。優しい味わいのクッキーを味わいながら、再び尾道を旅する日のことを思い描いた。