文=鈴木文彦 写真=篠原宏明

2月14日(月)、東京・恵比寿に『wine@ EBISU』(ワインアット エビス)というワインショップ兼ワインバーがオープンする。一見すれば、世にあまたある、ワインのお店。しかし、ここは、これまでのワインとの付き合い方をアップデートしてくれる可能性を秘めている。wine@という企ての一部をなすWebサイト https://wine-at.jp/)とともに、仕掛け人である代表取締役社長 丸岡栄之氏、および取締役 橋本拓也氏のインタビューを紹介したい(全2回)。

ワインギョーカイの珍事

 2月14日(月)、東京・恵比寿に『wine@ EBISU』というワインショップ兼ワインバーがオープンする。

 経営するのはブロードエッジ・ウェアリンクという会社だ。オーナーのメインビジネスは不動産投資業。派生して物流業でも成功していて、複数の飲食店も経営している。そしてワインのコレクターでもある。そんな背景を聞けば、ワイン好きは「ああ、なるほどね」と、何かを理解した風の強がりが自然と口から漏れてしまいそうだけれど、ここは、さらにその背後に得体の知れないものがある。

 なにせ、現役で活躍し、ワイン好きから信頼もされれば注目もされるソムリエ諸氏が何人も、さらにはそのスジでは名の通ったワインコンサルタントやジャーナリストなどのメディア関係者までもが協力関係にあるからだ。

 いわゆるワインギョーカイが、背後にいる。筆者は、そのギョーカイの知人から『wine@ EBISU』がお披露目間近である、ついては話を聞いて欲しい、と熱のこもったお誘いをうけ、その熱意に負けて取材に応じた次第なのだけれど、得体が知れないといったのは、このギョーカイは、道ですれ違いでもすれば、ハグして愛を語り合いかねないほどに横のつながりが強い一方、いざ、ビジネスとなれば、利害関係には敏感で、自分に利がなければビシッと壁をつくる人間たちによって形成されているからだ。

 こうやってひとつの旗のもとに集って、なんらかのビジネスを一緒に展開しようとする、というのは、ちょっとした珍事に見える。そのうえ異業種とのコラボとは……。

 珍事の発生原因には、このギョーカイが、昨今、危機意識を抱いているという事実があるかもしれない。世界的なワインジャーナリズムの盛り上がりとワインのグローバル化が起きたのが1980年代。日本は、その後半にバブル景気が到来したことを原動力として、世界のムーブメントからほんのちょっと遅れる形で、ギョーカイを形成し、あっという間に世界的に無視しえないワイン市場を形成した。が、この偉大なるギョーカイは、2020年ともなると、老朽化を露呈し始めていた。

 アップデートは、漸進的になされるものと予想された。そこにCOVID-19という黒船が到来してしまった。

 ご存知のように、酒とこの黒船との間には、緊張関係がある。ピンチはチャンス、いまこそ変化の時、などとスローガンを叫ぶのはいいとして、いざ、なにをどうする、という段になると、ギョーカイが真に偉大であることが軛となる。

 今回長いので、ここで結論を先に言ってしまうと、このギョーカイと不動産投資業者の異例のタッグチーム『wine@』は、ギョーカイが、今日まで苦慮しているアップデート問題に、ひとつの回答を示す可能性を秘めている。

 問題の所在は、筆者おもうに以下のようなところにある。これを読んでくれているビジネスパーソンのなかにも似たような課題が目前にちらついている業種の方はいらっしゃるのではないか?

 ワインは、造り手にしても、産地にしても、それを扱うソムリエやバイヤーにしても、世代交代が進んでいる。乱暴に言えば、今のワインは今っぽい商品だ。ところが、日本のワインギョーカイを支える20世紀にワインを愛好していた層は、すでに結構な年齢に達し、もはや経験も豊富で、あまり心情面でも冒険的にはなりづらい。となれば、ギョーカイ的には、モダンなワインの面白さは、これからワインを楽しもうとする層にこそ、知って欲しいところなのだけれど、この層との接点が乏しいのだ。

 また、ワインというのは、やはり、小売価格で1本3000円以上くらいからが、面白い。そういうワインは、表現が豊かであったり、主張があったりするからだ。そういうなかから、自分がピンとくるワインに早いタイミングで出会えれば、その後、ワインを好きになる可能性はとても高いのだけれど、750mlで3000円以上の酒をわざわざ何種類か試す、というのは、とりわけギョーカイが相手にしたい20代とか30代にとって、なかなかハードルが高いものだ。

 経済的問題をクリアできたとしても、無限にある選択肢のなかから、一体、何と何を試したらいいのか?という問題もある。 この問いに答えてくれる人が身近に存在する者は幸いかな……。

 結果的に、日本においてワインは今、各所に、迷子を生み出しやすい構造を抱えてしまっている。「じゃあ、どうするか?」 なのである。