文=條伴仁 イラスト=日高トモキチ

アイドルをテーマにした「アイドルの映画」

  2021年は新型コロナ禍で映画業界が大きなダメージを負った1年でしたが、同じく、あるいはそれ以上に影響を受けたといわれる業種に「ライブエンターテインメント」があります。少しでも復活の力になればという思いを込めて、今回は「アイドルの映画(映像作品)」についてお届けします(ただし、女性アイドルの話だけになりますが、ご容赦ください)。

 といっても今回扱うのは「アイドルをキャスティングした映画」ではなく、アイドルをテーマにした「アイドルの映画」に関して、映画館とライブ会場をつなぐ「プラスワン」をお届けします。

 なお筆者は新型コロナの影響で、コンサートやイベントの開催が制限されるまでは、年間30現場(ライブ、フェス、リリースイベントなど)程度に参加していた、一般的には「いい年して・・・」といわれる一方、ディープな方には「浅いな」といわれる中途半端な深度のファンであることをお伝えしておきます。

 

地下アイドルをリアルに描く感動作

◉ドラマ「だから私は推しました」(2019NHK総合 8

 最初にご紹介する作品は、地下アイドルのファンになって、その沼にはまっていくヒロインと「推し」の物語。周囲から自分が承認されることに注力して生きてきたOL(桜井ユキ)が、(架空の)地下アイドル「サニーサイドアップ」の落ちこぼれメンバー(白石聖)を「推す」ことで、自らの価値観を変えていくストーリーが、「推し」と「押し」のダブルミーニングになる事件を通して描かれます。

 みなさんは「地下アイドル」という言葉にどのような印象を受けるでしょうか?この場合の「地下」は彼女たちの主な活動の場であるライブハウスが地下にあることが多かったことが語源といわれています。

 なので「地下アイドル」は「ライブアイドル」と読み替えられることもあります。現在、そのすそ野は非常に広く、様々なコンセプトや楽曲ジャンルが採用されていますが、総じて現場での活動が中心の「地下アイドル」は、なんといってもファンとの距離の近さが特徴で、そこにはもしかしたら第三者的には理解しがたいかもしれない「観客」と「演者」の独特の文化が形成されています。

 本作「だから私は推しました」の最大の見どころは、そうした「地下アイドル」文化のリアルな(そして愛情ある)再現にあります。それは劇中に使われる3曲のオリジナル曲の(いい意味でメジャー感を出し過ぎない)絶妙なさじ加減であったり、ライブハウスでのライブやその後の物販の様子などの創り込みにとどまらず、アイドル側の厳しめの収入事情や、実は本作の物語の鍵となっているファン側の経済事情や行き過ぎた独占欲などのネガティブな側面も含めて、多少なりとも現場に参加しているものとして納得感のある世界が展開されます。

 さらに本作の世界観の構築が徹底しているのは(架空の)グループの公式Twitterも展開し物語の進行に合わせた裏設定のさりげない説明、そして「大切なお知らせ」(注)までもが投稿されていることです。このTwitterは本稿の執筆時にまだ閲覧可能でしたので、興味を持たれた方はぜひ目を通してみてください。

注:「お知らせ」の内容は大きな会場でのライブの開催告知などポジティブな内容の他に、メンバーの進退、グループの解散などネガティブな内容の場合も多く、見かけるとドキッとすることが多い投稿です。

 本作がこうしたリアルさを獲得できたことのキーパーソンは、おそらく「地下アイドル考証」としてクレッジトされ、本編にもちょっとだけ出演している元・地下アイドルの姫乃たまの起用ではないかと思います。

 現在でも音楽のほかにライターなど多彩な活動をしている彼女ですが、実は筆者もその著書『潜航 地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー/2015)と、そのフィールドワーク編ともいえる『職業としての地下アイドル』(朝日新書/2017)を、サブカルチャー的な興味から読むことがなければ、未だに「地下アイドル」という言葉に誤解を持ったままで、ましてや現場に出向くこともなかったのではないかと思います。本作に少しでも共感するものがあれば、サブテキストとしてチェックしてはいかがでしょうか。

 もしかしたら本稿を読まれている方からは、遠い世界の話かもしれませんが、よろしければプラスワンの「沼」のほとりの景色をぜひご覧いただければと思います。