文・写真=青野賢一

 スタイリスト・小沢宏さんが、故郷である長野県上田市に自身の店「EDISTORIAL STORE(エディストリアル ストア)」を構える過程を追う全5回のシリーズ記事。第1回は、店を作ることを決意するに至るまでの話をまとめたが、今回は小沢さんへのインタビューを通じて、商品セレクトについてや店舗のフロア構成など、もう少し具体的な「EDISTORIAL STORE」の内容に迫れればと思う。

 

セレクトは買い物とスタイリスト仕事でのかかわりを重視

 「EDISTORIAL STORE」は、ブランドやショップの「経年在庫」やちょっとした傷ものである「B品」、「サンプル」から小沢さんのお眼鏡にかなったものをピックアップするというかたちで品揃えのラインナップを作ってゆく。では、どういったところに声をかけているのだろうか。

「根本的な基準としては、自分が買い物をしたことがある、もしくはスタイリストとして商品の貸し出しをしてもらったことがあるブランドやショップ、ということになります。特に買い物しているところですね。そのなかでも極端なことをいえば、『ここ、絶対無理だよな』というところからお声がけしたいと思っています。普通に考えたら、安く売ってくれそうとか在庫をしっかり積んでやっているところとなるわけなんですが、そうではなくてハードルを高く設けて妥協のない品揃えを目指しています」

 アイテムのピックアップは現在進行形で行われているため、個別のブランドやショップの名前を記すことは控えておくが、公私にわたって古くから付き合いのあるところは前向きに協力を申し出てくれたり、また逆に最終的には断られてしまったが、その理由を企業理念に照らして丁寧に説明してくれたところもあったという。

「イエスかノーかはその会社の事情で決まると思うのですが、ノーであった場合でもすごく納得できる話を聞くことができるので面白いですね。これから先もいろいろなところに赴いてお願いをするわけですが、協力の可否はさておき楽しみですね」

 

アイテムに物語を与えて「ライブストック」に

 ファッションにおいては、その時々の気分が品揃えに反映されていることも重要である。経年在庫などから商品をピックアップする場合、それはどの程度可能なのだろうか? 

「そこはすごく難しいです。でも、たとえば今年のものを今年っぽくなく着るとか、10年前に買ったものをあたかも最近手に入れたかのように思わせるとか、そういうのがファッションの醍醐味だったりもしますよね。そんな、服が好きな人なら誰しもやっているようなことをお店という空間で表現できたら、という風に考えていて、それはなんとかなるんじゃないかと思っています。それには『なんだか古臭い服だな……』と思われないように、きちんとアイテムにストーリー性を持たせていかなければなりません」

 ものにストーリーを付加するというこの姿勢は、実は店名にも明確に反映されている。

「以前、僕は〈EDISTORIAL〉というブランドをやっていて––––あまりうまくいかなかったんですけど(笑)––––、これは「エディトリアル」と「ストーリー」を組み合わせた造語です。『どう編集してそこにどういう物語をつけて提案するか』というスタイリストの醍醐味、矜持を込めたネーミングなのですが、それを3D化するのが『EDISTORIAL STORE』。つまり『何をセレクトして、どのように並べて、どうコーディネートしてその物語をお客様や世の中に提案するか』ということですから、〈EDISTORIAL〉を立ち上げたときに考えたことがそのまま生かされています」

しなの鉄道線の上田駅から取引先へと向かう

 「EDISTORIAL STORE」で展開する商品を、小沢さんは「ライブストック」と称している。「展示会オーダーはしない、オリジナルは作らない、というのがこの店の基本的なルールで、繰り返しになりますが商品はブランドやショップの経年在庫、すでに世の中に出回っているものからのセレクトが中心です。経年在庫は言葉を変えれば『デッドストック』ですが、そのなかから自分がピックアップして店頭に並べることで、『デッドストック』に再び命が吹き込まれて『ライブストック』となる、ということです。つまり『EDISTORIAL STORE』はライブストック型セレクトショップなんです」