ファッションデザイナーという肩書きは、20世紀末になると古びたものになる。

 1994年、ラグジュアリーブランド、グッチのクリエイティブ・ディレクターに就任したトム・フォードは、製品のデザインだけにとどまらず、広告ビジュアル、店舗のエクステリアとインテリアなど、いわゆるプロモーション、アドバタイズメント、マーケティングの全般に関わることでブランドの再生を成し遂げた。

 また、2001年からバーバリーのクリエイティブ・ディレクターだったクリストファー・ベイリーは、その8年後にはチーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)に就任し、バーバリーのブランドイメージを統括。そして2014年、最高経営責任者(CEO)となり、企業体質のさらなる改善に取り組んだ。

 さて現在では、ブランディング戦略のすべてに関わるアーティスティック・ディレクターという肩書きも登場。ラグジュアリー企業にとってクリエイティビティに対するマネジメントの重要性が増している。

「服飾史家」が読み解く13ブランドの最新モード

 服飾史家という肩書きをもつ中野香織さんは、東京大学文学部と教養学部イギリス科を卒業後に、ケンブリッジ大学客員研究員、東京大学教養学部非常勤講師、明治大学国際日本学部特任教授などを歴任し、現在は昭和女子大学の客員教授。で、この間にファッション史、ダンディズム、スタイル、最新モードに関する研究・執筆・講演を行うほか、企業のアドバイザーも務められている。

 中野さんが服飾史家を名乗ったのは、新聞にコラムを連載する際に肩書きが必要になったからだ。新聞社とのやりとりで、ファッションジャーナリストでは冗長と編集者。服飾研究家という肩書きに期待されるほど専門的なコラムは書かない、と中野さん。そんなこんなで服飾史家に落ち着いた。この肩書きで四半世紀! いまでは同業というか同肩書き者もあわられた。

 さて、autographでは10月18日より「LOOKBOOK 2019 Autumn and Winter」と銘打ったラグジュアリーブランド特集をスタート。名うてのクリエイティブ・ディレクターやアーティスティック・ディレクターらが提示する、下記に列記した13ブランドの最新モードを、服飾史家の嚆矢である中野香織さんが読み解く。

 ラグジュアリーブランドの価値が、その戦略が見えてくる。それは時代の潮流を生みだすチカラなのか、それとも対峙する流れなのか──中野さんの解説をお楽しみください。

GIORGIO ARMANI|男に輪郭を与える服
CELINE|ロンドンの若きクリエイティブ世代とは?
BRUNELLO CUCINELLI|人間主義的ファッションの愉楽
DIOR|メゾンの歴史を現代のメンズファッションに蘇らせる
TOM FORD|時代を見据える審美眼をもつクリエイティブ・ディレクター
GUCCI|自己表現の手段なのか、それとも自己隠蔽の武器か?
KITON|世界で最も美しい服をつくるブランド
PRADA|自身に忠実な、若き少数派のスタイル
LORO PIANA|サスティナビリティと歴史と現代性と美しさ
RALPH LAUREN PURPPLE LABEL|服を着ることで夢に近づく
BOTTEGA VENETA|静謐で自由なラグジュアリー世界
LOUIS VUITTON|新時代にふさわしいクールなアレンジ
ERMENEGILDO ZEGNA COUTURE|「男らしさ」を再定義する