文=吉村栄一 撮影=前康輔

 坂本美雨の新しいアルバム『birds fly』が好きだ。静かなのだけど力強い。そして美しい。坂本美雨の歌と、平井真美子のピアノ、徳澤青弦のチェロ。この3つの音だけで構成された作品でもある。

 

久しぶりのリリース

 坂本美雨のオリジナル・ソロ・アルバムとしては、2014年の『Waving Flags』以来、聖歌隊CANTUSとのコラボレーション・アルバム『Sing With Me Ⅱ』も2016年のリリースだから、ずいぶんとひさしぶりとなる。ライヴやおおはた雄一とのユニット“おお雨”での活動、ラジオのパーソナリティ、エッセイやコラムの執筆など、忙しい毎日を送っていたようだが、アルバムの発表だけがなかった。

「子供が生まれて子育てをしていたし、前のアルバムから何年空いたとかはあまり意識していませんでした。ソロ・アルバムを作るモチベーションと環境とタイミングが来るのを待っていた感じ」

 環境がまずやってきた。

 湘南乃風の若旦那(新羅慎二)が発起人となって設立された新しい音楽レーベル“FOLKY HOUSE”の第一弾アーティストに誘われたのだ。

「もともとボーカル・トレーニングの先生が一緒だったんです。その関係で以前からご飯を食べに行ったりしていたんですが、あるとき歌手として興味を持ってくださってると言ってくださって、びっくりしてあらためてお話しを聞いてみたら、プロデューサーとしていろいろなアイデアも持っているし、ビジネス面もしっかり考えている。これはご縁かもしれないな、と」

 これが去年の秋のことだ。

 ほぼ機を同じくしてそれまで所属していた事務所からも独立し、個人としてアーティスト活動をすることになった。長女のなまこちゃん(仮名)も来年には小学校で、子育てのありようも変わっていくだろう。

 人生の転機といえるのかもしれない。

「そんな中、真美子ちゃんと何度かライヴをやっていく中で感じたものとか、コロナ禍で発表の予定もなく作っていた作品などが、この新しいレーベルにフィットするかもしれないなと思いはじめたんです」