写真・文=橋口麻紀

ウイルスとの共存で迎えた2回目のイタリアの夏を振り返って

 イタリア人にとって、一年でもっとも大切なヴァカンツァ(夏休み)シーズンも終盤を迎えた9月。太陽をたくさん浴びて、まるで競い合うかのように日焼けを愉しんだイタリア人が少しずつ街に戻ってくると、日常生活の”ならし“のはじまりです。

 平均で2週間のヴァカンツァをとるイタリア人の多くが、そのあいだ仕事から完全に離れ、マーレ(海)で過ごします。ですから、ヴァカンツァ明けの週はすぐには仕事モードにスイッチオンができないのもしょうがないのです。

 ヴァカンツァのために働いているといっても過言ではないイタリア人。穏やかな地中海とアドリア海に囲まれている地形からか、小さい時から海で過ごすことが夏の日常の風景。昨年は、COVID-19との共存という状況を迎え、マスク片手に、ソーシャルディスタンスをキープしてのビーチライフという、非日常の風景で過ごしたヴァカンツァ。それでも、2カ月間のロックダウンというつらい時期を乗り越えたご褒美だと、誰もがよろこびあった夏でした。

 あれから一年が経過して、COVID-19との共存で迎えた2回目の夏はといえば、マスク着用が屋内のみになったことで、ビーチにいる限りだと、日常を取り戻したかのようです。が、耳をそばだてると、今夏のビーチでの話題はもっぱらグリーンパス(ワクチン接種証明書)なのです。普通であれば、聞こえてくる会話は食にまつわるコトがほとんどなのですが。

 イタリアの新規感染者数は、5700人(8月31日現在)。ワクチンにおいては、12歳以上の人口の約65%が2回接種済みです。

 そのような状況下の8月初め、イタリア政府はグリーンパスを運用することを議会で可決。おおまかな内容としては、グリーンパスを持っていない国民は、レストラン屋内での飲食不可、電車での長距離移動不可、飛行機利用不可、美術館など公共施設の入場不可など。しかし、そこはイタリア。実際にいつから運用されるのか、電車の具体的な距離や区間、ヴァカンツァ先のホテルは適用対象になるのか、など詳細はわからずじまいです。

 今夏、ヴァカンツァを計画していた人の約70%がイタリア国内で過ごすということもあって、政府が発表したタイミングに、イタリア人がイライラを募らせていたのは言うまでもありません。結果、あいまいなグリーンパス運用についてのあれこれが、今夏のビーチの話題となったのです。

今年のヴァカンツァは少しだけチャレンジ

 昨年とはまた違った風景であった、今夏のヴァカンツァ。私たちは、シチリアを巡りました。今年は、いつもとはちがうことにチャレンジをするヴァカンツァにしようと、ミオ・マリート(私の夫)から提案があったのが数か月前。2週間をビーチで過ごすことは基本的には変わらないのですが、モデナからシチリアまでの約1300kmの距離をクルマで移動、そしてお友達らと一緒に過ごすという、今までにはないプランです。

 昨夏、連載でも書かせていただいたのですが、イタリア人にとってヴァカンツァとは、「自分のアイデンティティを見つめなおすタイミングで大切なこと。何もしない、何も考えないのがヴァカンツァ。その時間は仕事のことも忘れ、自分自身のクリエイティビティに集中し、自分を癒すこと」です。なので、往路もなるべくリラックスして最高のコンディションでヴァカンツァを過ごすのが、今までのミオ・マリートのスタイルだったのですが、なぜか今年は違うのです。

 なぜ、今年は果敢にチャレンジをするのかと尋ねると、「いつもと同じことの繰り返しでは、人生はたのしくないし、ヴァカンツァにおいてもチェレンジすることは生活に彩りを与えてくれることになるよ」と。まだまだ完璧な日常生活とは言えない中、癒しだけを求めるのではなく、刺激を求めるというミオ・マリートに、まだまだ知り得ないイタリア人のマインドがあることを感じました。そして、なぜこのタイミングでいつもとは違う選択をするのかという疑問もあった私だったのです。

フォンターネビアンケのビーチ