構成・文=長谷川剛(TRS)スタイリング=石川英治(TABLEROCK)写真=大泉綾平

若々しくも重厚なグリーンに魅せられて

 毎シーズン素敵なモデルをリリースし、紳士たちを大いに魅了する腕時計。シャツの袖口からチラりとのぞく小さなアクセサリーは、さり気ないだけに身に着ける人の趣味嗜好を、品良くかつ効果的に伝える象徴的なアイテムです。それゆえにウェルドレッサーたちは、こぞってこの小さな時報装置の吟味にこだわりを尽くすのです。財力が許すかぎり買い集めるのも、確かに大人の趣味のひとつ。しかし自身の掛け替えない時を刻む相棒であるなら、心の軸となる一本を決めておくのも悪くありません。

 仮に「この一本で!」と決めるのであれば、いろいろなシーンに使えるモデルが望ましいもの。晴れやかなスーツスタイルのときはもちろん、オフの寛いだカジュアルパンツ主体の装いにもすっきりマッチする時計が理想です。つまりダイヤ入りのような金無垢ゴージャス系ではなく、デカ厚複雑顔のダイバーズ系でもないモデル。それでいてしっかりとした大人の気品を感じさせる一本を選びたいものです。

ポロ競技での破損を避けるべく考案された反転式のケース。まさに時代に先駆けたオン・オフ時計のパイオニア。このギミック感も男心をくすぐるポイントです

 そこで浮上するモデルのひとつが、ジャガー・ルクルトの至宝「レベルソ」です。すでにご存知の方も多い角形時計の名品ですが、その誕生は実に1931年と90年も前のこと。あるイギリス軍将校による「ポロ競技の際にも使える時計が欲しい」というオーダーから生まれました。激しいぶつかり合いが避けられないポロは、時計風防の破損も多かったことから、革新的な反転式ケースが考案されたと言います。

 現在では何かとスーツなどシックな装いで用いられることの多いレベルソ。ですが、誕生の背景にはそんなスポーティなストーリーが隠されていたのです。そして今季はなんと満を持して鮮やかなカラーモデルが登場。

 実を言えばレベルソこそは、色使いに深い歴史を持つ元祖彩色時計。31年の誕生年には、すでにダークグレーやレッドを、33年にはネイビーを、35年にはチョコレートダイヤルをそれぞれ展開していたとのこと。今回の寛ぎ感溢れるグリーンダイヤルは、そんな“お家芸”の最新版と言えるラインナップなのです。

時代を経て多彩なバリエーションを擁するレベルソ。なかには第二時間帯表示を備えた両面モデルも存在します。しかしオリジナルのストーリーに敬意を表すのであれば、このソリッドメタル型を選びたいところ。オプションにてイニシャルなどをエングレービングするサービスも、ジャガー・ルクルトでは行っています(https://engraving.jaeger-lecoultre.com/ww/ja/choose-case) ジャガー・ルクルト レベルソ・トリビュート・スモールセコンド102万8000円(ジャガー・ルクルト Tel. 0120 791 833)

 彩色の文字盤と共に注目すべきは別注メイドのグリーンストラップ。これはジャガー・ルクルトと長年の付き合いあるアルゼンチンのオーダーメイド ブーツメゾン、「カーサ・ファリアーノ」がデザインしたもの。この限定モデルでは希少なコードバンを用いており、特徴的な奥深い艶は経年変化により一層玄妙な佇まいを見せるという逸品レザーです。

 従来の定番「レベルソ」も確かに魅力的。しかし随所にグリーンというカラーを纏った新しい「レベルソ」は、今までにないフレッシュな生命力を感じさせる仕上りです。清廉で堅牢なステンレススティールケースとのコンビにて、若々しくも重厚であり、それでいて色気を匂わせる万能感溢れる一本へと熟成を遂げたのです。この時計なら、人生のどんな場面でも共に印象的に過ごしていけること間違いありません。そっと書斎で寛ぐ夜の時間。ケースを反転させるがごとく、時計を愛でつつ自身をゆっくり振り返る。そんなシーンが何よりも似合う特別な一本です。