2022年に北京オリンピックを控え、注目度が高まるフィギュアスケート。アイスダンスの村元哉中、髙橋大輔が今年9月に行われた大会で、前大会のスコアを大きく上回る好成績をおさめた。2019年9月、髙橋大輔がアイスダンスへの転向を発表してから2年。さらなる進化への期待が高まる2人の、これまでの軌跡を振り返る。

文=松原孝臣

2021年5月に主演したアイスショー『LUXE(リュクス)』で演技する高橋大輔と村元哉中 写真=共同通信社

確かな進化を伝えた演技

 あれから2年あまりが経つ。決して長くはない時間の中で、でもその歩みは際立って充実している。

 9月、村元哉中、髙橋大輔はアメリカで開かれた「レイバー・デイ・インビテーショナル」に出場した。リズムダンスは84・74点、フリーダンスは129・70点、合計は214・444点。この大会は国際スケート連盟非公認であるため単純に比較することはできないが、昨年末の全日本選手権が151・86点であったから、大幅に上回るスコアをあげた。

 何よりも演技が、たしかな進化を伝えた。リズムダンスの『ソーラン節』は、耳慣れた民謡を基調としつつ、ワールドミュージックを思わせるアレンジが加わった曲だ。2人の滑りはスタートのポーズから感じさせる予感を裏切らない。呼吸の合った動作とともに、力強さと壮大な空間、時間を思わせる演技を展開する。

 フリーダンスは昨シーズンに続き、クラシックバレエの音楽を使用した『ラ・バヤデール』。新たなシーズンを迎え、1つ1つに磨きがかかり、難易度をあげたリフトもスムースだ。髙橋の安定感とともに村元の動きもより際立つ。

 リズムダンス、フリーダンス、それぞれに異なる世界を氷上に表してみせた。そこに2人の豊かな可能性があった。

 

原動力はどこにあるのか

 アイスダンスは時間を重ねることが大切だとしばしば聞く。その言葉からすれば、異例とも捉えることができる時間の短さで、伸びを示した。昨シーズンの全日本選手権で髙橋は「よくここまで来たと思います」と語った。その言葉をあらためて思い起こさせる。

 2人のキャリアもつながっているだろう。村元はシングルで活動したあと、2014-2015シーズンからアイスダンスに転向し、クリス・リードとともに平昌オリンピックに出場するなど実績を残してきた。髙橋のシングルでの長年の活躍は言うに及ばない。それでも、シングルとアイスダンスとでは異なる。

「距離感の怖さが大変だなと思いました」

 結成を発表した会見で髙橋は言ったのもその1つだ。他者と近い距離でスピードをもって滑る感覚は、シングルでは生じない。そもそもシングルとアイスダンスでは靴やブレード自体が異なる。適応しなければいけないことがたくさんある。そしてやはり、パートナーとの呼吸をどう合わせるかが鍵となる。氷上で一緒に滑ることにとどまらず、どんな作品を築きたいか、どう表現したいか、思うところを伝え意思統一を図ることもその中に含まれる。時間を重ねる必要があるとされるのも、そこに理由がある。

 だからデビューイヤーとなった昨シーズン、そして今回の2つのプログラムの成長は、よくこれだけの時間の中で、と思わずにはいられない。

2020年全日本選手権、アイスダンス表彰式での村元哉中と髙橋大輔 写真=森田直樹/アフロスポーツ