JBpress autographの編集陣がそれぞれの得意分野でお薦めを紹介する連載「RECOMMENDED」。第2回目は35年前に復刻を果たした「薩摩切子」の新たなシリーズ「grad.(グラッド)」をご紹介します。

文=石崎由子(uraku) 写真=井上昌明 磯畑弘樹 (初出:2020年9月1日)

薩摩びーどろ工芸の新ブランド「grad.(グラッド)」より発売された「grad. ice(グラッドアイス)」左からグリーン、インディゴブルー、ブルー、ウルトラマリンブルーの4色

2020年のターニングポイント

 酷暑といえる、暑過ぎる夏の日々が続いた2020年。

 本来ならば、オリンピック開催で更に暑い日々を過ごしていたはず、そんな声は日本各地の地域産業に携わる方々からも数多く聞かれます。

 ここ数年、オリンピックのムードが高まるとともに、メイドインジャパン、ジャパンクラフトなどの日本の手仕事や、伝統工芸に注目が集まっていました。2020年は各地でイベントや、特別仕様のプロダクトなど企画が進んでいた矢先、上半期に世界中を襲った、COVID-19(新型コロナウイルス)の影響で、世界中で生産活動、流通、人の流れが止まり、静まりかえった街の様子が各地で見られました。加えて日本では近年毎年のように襲う大雨の災害も相次いで各地を襲いました。

 この状況は各産業に大きな打撃を与え、もともと、生産背景、材料調達、作り手不足、後継者不足などの問題を抱えていた伝統工芸は、かなりの打撃を受け、多くの工房や、店舗が休業、廃業に追い込まれていることも事実です。しかしこの逆境をなんとか工夫して、未来につなげていくためにさまざまな活動、展開を試みる工房や産地も多くみられます。

 ある意味、2020年はこの業界で一つのターニングポイントといえるのかもしれません。

 鹿児島県の工芸品である薩摩切子は、復刻を果たして2020年で35年という節目をむかえています。伝統工芸と呼べないのは、一度途絶えている産業だから。幕末の薩摩藩主、島津斉彬が推進したさまざまな産業の一つであった薩摩切子は、その当時主に贈答品として各地へ運ばれました。

 35年前、島津家の末裔が営む会社が立ち上げた新会社で、江戸切子やその他のガラス工芸のプロに声をかけて復刻を果たしました。その復刻事業に携わったメンバーが独立して26年前に立ち上げたのが「薩摩びーどろ工芸」です。

復刻を果たし、今年で35年目を迎える薩摩切子

 現在、吹きガラスから切子まで行う薩摩切子の会社はこの2社のみ、切子だけ行う工房は4社ほどあるそうです。この鹿児島で、地域の伝統的技術を未来に伝えるために新しい試みを目指している薩摩切子工房の取り組みを見ると地域産業活性への姿も、少し垣間見られるような気がします。