文=田丸昇

棋士の田丸昇九段が天才・藤井聡太の実力を棋士の目線で分析するシリーズ。先日の叡王戦で豊島将之叡王を破り、史上最年少で「三冠」を獲得した藤井が驚異的な強さの理由と、「四冠」となる竜王戦への展望を2回にわたって紹介します。

2021年9月13日、史上最年少での3冠を達成し、「三冠」と自筆した色紙を掲げる藤井聡太 写真=毎日新聞社/アフロ

羽生善治の記録を28年ぶりに更新

 9月13日に藤井聡太二冠(19=棋聖・王位)は、豊島将之叡王(31=竜王と合わせて二冠)に挑戦した叡王戦5番勝負第5局で勝ち、豊島を3勝2敗で破って叡王のタイトルを初めて獲得した。

 その結果、藤井はタイトル「三冠」を19歳1ヵ月の「最年少記録」で取得した。

 羽生善治九段(50)は1993年1月6日、三冠(棋王・王座・竜王)を22歳3ヵ月の同記録で取得した。藤井は、それを28年ぶりに3年以上も大幅更新した。

 藤井が三冠を取得した翌日、大半の新聞がその快挙を一面などで詳しく報じた。テレビ各局の情報番組は藤井特集を組んだ。そうした報道は以前にもあったが、今回は「最年少記録」と「三冠」に焦点を当てた。

 

三冠を取得した棋士は10人しかいない

 通常は大学1年生か社会人1年目である19歳の年齢で、藤井が将棋界でトップに迫るような大活躍をしているのは、やはりすごいことである。今年の年収は1億円に達するだろう。

 プロ野球の世界で、打者が本塁打・打点・打率の3部門で1位になると、「三冠王」として特別に表彰される。日本では過去に、野村克也、王貞治、落合博満、ランディ・バースなど、7選手しか達成していない。

 将棋界の「三冠」は、それとは意味が異なる。

 竜王・名人・王位・王座・棋王・叡王・王将・棋聖の8タイトル戦のうち、3つのタイトルを獲得することである。

 過去には計10人の棋士が三冠を取得した。年代順に列記する。

 1957年に升田幸三実力制第四代名人(故人)、1959年に大山康晴十五世名人(故人)、1972年に中原誠十六世名人(74)、1984年に米長邦雄永世棋聖(故人)、1988年に谷川浩司九段(59)、1993年に羽生九段、2004年に森内俊之九段(50)、2013年に渡辺明名人(37)、2019年に豊島竜王、2021年に藤井三冠。

 1950年代の頃は、タイトルは名人・王将・九段だけで、升田と大山の三冠は「全冠制覇」でもあった。その後、タイトルは五冠~七冠と増えていった。1996年には羽生が前人未到の「七冠制覇」を達成した。