文・写真=平澤 梢

 2021年で活動20周年という節目を迎えたアーティスト清川あさみさん。写真に糸やビーズを使って刺繍を施す作品をはじめ、絵本制作、広告のディレクションや店舗・空間ディレクション、写真集のプロデュースなど幅広い分野で活躍している。さらに今年は、故郷・淡路島の国指定重要無形民族文化財である淡路人形浄瑠璃をプロデュースし、新演目「戎舞+(プラス)」を発表。集客数前年同時期比288%の成功を収めた。
 常に話題を集め、新たな分野にチャレンジしていく彼女の目は何を捉えているのだろうか。

写真=宮原夢画 Muga Miyahara (MMF)

目指したのは緩やかなアップデート

——担当された「淡路人形浄瑠璃 再生」第一弾が大成功で幕を下ろしました。プロデュースにあたり、一番大切にした部分は?

清川:古典芸能全体で盛り上げようという動きがあるのですが、私が伝統芸能を更新する試みのなかで一番表現したかったのは、緩やかなアップデート。全てを新しくするのではなく、元々ある価値やいい部分を残しながら、どう新しく見せるか。そのせめぎ合いを細かく細かく計算しながら進めました。

 今はデジタル技術も進んでいるので、全く新しいものを作ったり、デジタルに寄せた表現だったりであれば逆に簡単にできると思うのですが、そうはしたくなかった。地元ということもあり、地域の魅力や歴史といった文化も一緒に伝えたいと考えました。

500年以上の歴史を持つ淡路人形浄瑠璃。遠藤秀平氏が設計したモダンなデザインの人形座も見所。

——地域の魅力をどのように舞台に取り入れたんでしょうか?

清川:「戎舞」という演目は、戎様が人々の願いを叶えようと御神酒を飲み、酔った戎様が大きな鯛を釣り舞いおさめるというありがたいお話で、淡路人形座の中でも代表的な作品です。

 さらに調べていくと、実は淡路島の歴史と戎様に繋がりがあることがわかって。古事記の国生み神話によると、イザナギノミコトとイザナミノミコトが日本列島をつくるとき、一番はじめに誕生したのが淡路島。その前にうまく育たず、流されてしまった蛭子(=ヒルコ・国生みの際に最初に生まれた最初の神)が戎様ではないかといわれているんです。

 こんな興味深い歴史や繋がりがあるのに、全然知られていないのはもったいない。そこで、国生み神話と戎舞という2つの物語をくっつけて新しいストーリーを作ることにしました。脚本は古典芸能にも精通しているいとうせいこうさんに書いていただき、アニメーションを入れて、衣装も現代的に一新し、伝統芸能に興味がなかった人にもいかにわかりやすく伝えるかということを意識しました。


——私も人形浄瑠璃は初鑑賞でしたが、すごく人間味を感じました。


清川:そう!人形だけど人間に見えてくるから面白いですよね。戎様もすごく顔色が変わったんですよ。

 最初は何年も踊り続けて少しくたびれて見えたんですが、福を呼ぶ存在としてめでたいものに見せたくて。吉祥文様をふんだんに取り入れた着物をイチから作り直し、背景には淡路島の朝日を描いた作品「inori」を使いました。すると、顔つきまで変わったみたいに舞台上で堂々と見えて。

 「美女採集」の撮影の時もそうなんです。皆最初はモヤモヤしていたものが、その人の魅力を伝えることでパッと晴れて、カメラの前に立つと顔色が変わるんですよね。その瞬間が面白い。

福を願って舞う戎様。背景は清川さんの作品「inori」を転写したもの。
写真=濱田英明

みんなが気づかない魅力を発掘したい

——「美女採集」でも今回の人形浄瑠璃再生でも、そのものが本来持つ魅力を引き出すことが清川さんの方法論なんですね。

清川:そうですね。まだみんなに気づかれていない魅力をどう伝えるか、ということは常に考えているかもしれない。

 特にプロデュースのお仕事は「清川相談室」みたいなところがあって(笑)。例えば、木村カエラさんのCDジャケットを依頼された時は、当時アイドルっぽいイメージで見られることもあった中、斬新に見せるにはどんなビジュアルを作っていけばよいのか、とか、JUJUさんのCDジャケットディレクションの時は、より幅広い層に絵で届けるにはどうしたらいいか、ということもありました。たくさんの魅力があるのに伝わっていないのを見ると歯痒くなっちゃうんです(笑)。

 美女採集作品も同じで、人とか物事の魅力って多面体だと思っているんですね。だから、もっとこういう面があるのに、こういう魅力もあるのにという部分を伝えたい。それが1枚の写真だけでは表現しきれないから、動植物に例えたり、平面から立体にしたり・・・色々なストーリーを繋げて作品にしていくことを常に考えています。