構成・文=長谷川剛(TRS)スタイリング=石川英治(TABLEROCK) 写真=大泉綾平

普遍的でありながらモードのエッジを隠し持つ

 ある程度の年齢に達した男子が、ファッションの方向性を急激に変えてしまうのはややリスキー。思いがけず肩肘張ったルックスに仕上がってしまうなど、せっかくの投資が逆効果になることもしばしば。ゆえに手始めはバッグなどの革小物から、少しずつスタイルをアレンジしていくくらいがベターなのです。特に社会的立場のある人ならば、バッグ類にしてもオーソドックス型から選ぶのが基本中の基本。いくらブランド物だからといって、カラフルで大きめロゴが入ったものなどは絶対に避けるべきなのです。とは言え、誰もが持っている無個性なトラッド鞄では新調する意味が見出せません。

 そこでおすすめしたいトム フォードのレザーグッズ。現代モードシーンの鬼才であり、数々の実績を残してきたレジェンドが手掛ける革小物は、モードの先進性を持ちながら良い歳の男子が気後れせずに持てる、普遍的な美観と気品を備えています。90年代のグッチを救いサンローランの売り上げを伸ばし、その勢いで自身のブランドを立ち上げたトム フォードのサクセスストーリーは、すでに周知の通り。

クラッチバッグ型のポートフォリオは薄マチで非常にスマート。ほぼB4サイズの大きさは、小脇に抱えるのにジャストなフォルム。内部にはカードホルダーやペン差しも装備しており、ビジネス使いにも対応します

 スーツやアイウエア、フレグランスなどでもヒットを飛ばしたレジェンドですが、特にバッグ類は業界人にも隠れリピーターを多数持つことでも知られています。彼のモットーである“セクシーかつリッチにしてボールド”の哲学を、バランス良くちりばめておりプロダクトとしても非常に高い完成度を誇ります。そのひとつが漆黒かつしっとり艶やかなポートフォリオ。

やや太幅のジップラインが、インパクトに加えリッチな印象を放ちます。それと同時にこのビッグジップこそがトム フォード・アイテムであることをさり気なく主張します。ポートフォリオ(W34 X H26 X D4 センチ)18万7000円 トム フォード(トム フォード ジャパン Tel. 03 5466 1123)

 厳選の高級厚手レザーを用いており、掴んだときの手応えからも、匂い立つラグジュアリーを感じさせる仕上りです。装飾といえば、箔押しされたロゴが小さくあるばかり。老舗の英国ブランドもかくやと言わんばかりのアンダーステイトメント性が、お洒落の本質をさり気なく物語ります。ただしモードの魔術師らしくモダンな遊び心も同時に兼備。ブランドのシグネチャーである太幅のゴールド・ビッグジップを配しており、強く輝くアクセサリー的な要素に加え、ステイタスをアピールする唯一無二の要素を纏わせているのです。

 

1970年代のレトロなデザインが装いにエッジを添える

 そんなトム フォードのレザーグッズとして、もうひとつ見逃せないのが新作のショルダー型。今まで彼が手掛けるレザーアイテムと言えば、漆黒のシボ付き革がひとつの定番。しかしこの新作では、キメ細やかにしてソフトかつ温かみあるブラウンレザーをフィーチャーしています。

新作ではシグネチャーのゴールド・ビッグジップをレギュラー幅にアレンジ。それゆえにレトロな個性が引き立つ仕上りに。ジップのスライダーにもブランドロゴを添えるなど、細部に至るまでしっかりデザインされています

 聞けばこのメッセンジャーバッグは、かつてのアメリカ映画、『大統領の陰謀』(1976年ワーナー・ブラザース)でダスティン・ホフマン演じる新聞記者から発想を得たものとか。なるほど、どこか馴染み感を漂わせるルックスは、70年代をひとつのエッジとしているのです。そう、少しばかりレトロな雰囲気こそ、希代の魔術師が狙いを定めた新たな“遊び”。ある意味非常にオーセンティックなルックスに加え、仕立てや縫製も熟練の職人メイドゆえに、コンサバティブなメンズ服全般的に相性抜群です。

キメ細かい上質なソフトレザーを奢っており、使い始めから手馴染みも抜群。均一なステッチングからも上質さがうかがえます。メッセンジャーバッグ(W17×H23×D8 センチ)26万4000円 トム フォード(トム フォード ジャパン Tel. 03 5466 1123)

 しかし、ラグジュアリーなゴールドジップやフロントのロゴネームがさり気なくモードのエッジをアピールし、分かる人には分かる高感度なスタイルに仕上るのです。熟年男子のスタイルアップは、このくらいの匙加減こそ失敗しない大切なコツ。性急に手を広げることなく、革小物のアップデートから徐々に進めていきましょう。