文・写真=藤原美智子

ひらめきと思いつきを活かすことから始まった、私の人生

 前回の第一回目の連載を読んだ知人から「家を建てるって、普通は人生の一大事じゃない? どうやったら、あんな風に簡単に決められるの? びっくりした!」というLINEが届いた。私が文章中に書いた「成り行きと勢いで建てた」ことが信じられないのか、呆れ果てているのか。多分、どちらも、なのだろう。

 でも私にしてみれば書いた通りのことだし、いつものこと。「どうやったら」と聞かれても答えようがない。あえて説明するとしたら「私の人生は、ひらめきと思いつきで成り立っているから」ということだろうか。連載には「成り行きと勢いで」と書いたけれど、この「ひらめき」と「思いつき」という言葉の方が適切かもしれない。

この二つの言葉で「家を建てた」ことを簡単に説明すると、こんな感じ。何十年も前から「いつか、こんな庭のある家に住めたら良いな」と思いながらスクラップブックを作っていた。だからこそ「いつか」に合うような土地を見つけた時にひらめいたのだろう。そして思いついたようにパッと行動に移せたということなのだろう。

「ひらめきと思いつき」は私の子供の頃からの性質である。そして、これは私のコンプレックスでもあった。なにしろ「計画を立てて」ということができないのだから。そんな風にできる人を羨ましく思っていたし、「自分はどうして出来ないんだろう」と悩んでもいた。

 私は何かがひらめいたり思いついたりすると、すぐに実行しないと気がすまないのだ。ゆえに、時間をかけてジックリと計画立てから実行するということができない。時間をかけて計画を練っていたら、ヤル気が失せてしまうだけなのだ。

転機が訪れた瞬間のこと

 でも34歳の時、このコンプレックスは消えた。このような自分の性質の活かし方がわかったからだ。この年にヘアメイクのマネージメント会社を設立したのだが、実はこれもひらめきから始まった。その経緯を説明すると、こんな感じ。

前年の33歳の大晦日。除夜の鐘を聞きながら思ったのだ。

 今まで明日、急に、どこか。例えばパリに住みたいと思った時、それをすぐに実行できるような人生でありたい。そのためにも自由でいたいし、身軽でいたいと思ってきた。だから車とかマンションなどを所有するのも嫌だった。そうしたものを持ってしまうと、それに縛られて自由に行動できなくなるし、それは「いつかのことでいい」と思っていた。でも突然、違う思いが湧いたのだ。

 じゃー、今までパリに住むための具体的な行動をしたことはある? 

「いつか、こうしよう」と思っていることを実行したことはある? 

 どちらもNO。自由でありたいと思いながら過ごしてきたけれど、実はそれってただの根無草じゃないの? と。

 一応、断っておくと当時、私はレギュラーで雑誌の表紙のヘアメイクを担当していたし、各誌のメイクページではタイトルに私の名前が付くことが多くあったし、連載も持っていた。取材も多く受けていた。CMの撮影で海外ロケに行くことも多かった。はたから見たら仕事は順調だし、何の不満も持っていないだろうと人には思われていたことだろう。

 でも心の中では「これでいいのかな・・・」という思いが燻っていた。「私はどこに向かっているんだろう」という漠然とした思いが心の奥底に幾層にも重なり、それが表面に浮かび上がってきた。そんな時期だったのだ。

事務所設立後に出版した自著やMOOK、CD、DVDなど

 転機は突然やってきた。除夜の鐘を聴きながら「こんな根無草のような自由はもう十分かな」という思いがフッと湧いたのだ。そして「じゃー、どうすれば?」と思った時、その頃よく周りから「そろそろ事務所でも作れば」と言われていたことを思い出した。そんな時、私は「えー?!イヤだ〜。そんなの作ったら、責任ができるし自由にできなくなるもん」などと答えていた。

 でも、その時にひらめいたのだ。「そうだ! 今までしたことがない‘責任ある人生’というものを経験してみよう!」と。そして「そのためには事務所を作れば良いんだ」ということを思いついた。これが、私が事務所を作ることになった経緯である。とは言っても、今までの自分の人生に疑問を感じ、事務所設立を思いつくまでに要した時間は1分ぐらいなのだが(苦笑)。

行動してわかった自分の性質の活かし方

 事務所を作ることを決めた私は、正月明けからそれを現実のものとするために凄い勢いで行動していった。

 気に入った賃貸の物件が見つからなかったので、マンションを購入して好きなようにリフォームすることを思いついた。どんなイメージにしようか、間取りにしようか。床の板や壁紙、カーテンをどれにしようかと選ぶのも、家具探しもインテリア好きな私にとってはとても楽しい作業だった。

 でも貯金するタイプではなかったのでお金はない。そこで商工会議所に相談して融資を受けることにした。それまでの私はそのような実務的なことは大の苦手だったし、「自分にはできない」と思っていた。でも切羽詰まると人間はやるものだし、私にもできるということを知った。

 友達にマネージャーになってもらうことになっていたのだが、リフォームが終わる頃になって「やはり子供がいるから無理」と断られて急遽、違う人を探した。それが今も一緒に働いてくれているマネージャーである。

 事務所名を決めて届出もして、名刺もロゴ入りの便箋も封筒も作り、各仕事関係に事務所設立のお知らせも郵送した。その間も撮影の仕事は普通にこなしていたし、海外ロケにも行った。いろいろなトラブルもあったけれど、除夜の鐘を聴きながらひらめいた‘事務所をオープンするのは4月20日!’ 当日に全てが整い、無事に事務所設立の日を迎えることができた。

事務所設立の案内状

 その時に、しみじみと思ったのだ。「いつか」を実現するためには行動すれば良いだけだったんだ、と。そして私は計画を事前に立てることは苦手でも、ひらめいたら脇目も振らずに没頭して行動する性質を持っている。この「ひらめき」と「没頭」を組み合わせたら、「計画を立てて行動する」ことと同じではないか。だからコンプレックスに感じることはなかったのだ、と。

 もちろん計画をしないで物ごとを始めてしまうので、走り始めたらもの凄く大変ではある。でも没頭しているので「もう、疲れた〜。いやだ〜」と思う暇はないし、走りながらいろいろなことをこなしていくので物ごとが早く進む。誰にとっても、自分を活かせる最適な方法はあるのだ。自分の性質を大事にして利用すれば良い、ということだけなのだ。

来年で30周年、有限会社ラ・ドンナの設立は1992年4月20日

そうそう、「家を建てる」件も、このような自分の性質を十分に活かしただけ。そして、その後は返済のためにも仕事を凄く頑張れた。やはり何でも人それぞれ、というほかならない。

 それにしても第一回目の原稿に家を建てたことについて「これから始まる連載のどこかで書きたいと思っている」と書いたのだが、これで果たしてしまった。これからは何について書けば良いのだろう(笑)。やはり、この連載も自分の「ひらめきと思いつき」を活かして書いていきたいと思っている。