ルイ・ヴィトンのメンズ アーティスティック・ディレクター、ヴァージル・アブローは、いま、メンズの世界で最も注目を集める文化的アイコンの一人である。

 ガーナ系の両親のもとに生まれたアメリカ人で、大学院で建築学を学んだ後、音楽とも関わるようになり、米ヒップホップ界の大物であるカニエ・ウエストと出会って衣裳を担当し、ファッションの世界に入った。

 彼は2013年に自らのブランド「オフ・ホワイト・ヴァージル・アブロー」を立ち上げてラグジュアリー・ストリートという新たなジャンルを先導した。音楽やセレブリティを巻き込んで、このジャンルを一種のカルチャーに変えてしまった。

 2017年にはナイキや家具のイケアともコラボして可能性を広げ続け、2018年3月にパリの老舗ルイ・ヴィトンのメンズ アーティスティック・ディレクターに任命され、モード界を騒然とさせた。フランスを代表する巨大ブランドのこの地位に黒人が就任するのは初めてのこと、しかもヴァージルがブランドを立ち上げてからほんの5年くらいの急展開だったからである。

 そのヴァージルが今期に発表したコレクションの中で、ひときわ目をひくのが「アクセサモーフォーシス」というアイテム。聞きなれない単語は、ヴァージルが新しいディテールとともに世に出した新語であり、アクセサリー+モーフォーシス(変化)から成る造語である。バッグとウェア、両者の機能をさらに進化させるかのように融合させたアイテムは、持ち物があれこれと多いけれども両手をフリーにしておきたい現代人には、魅力的に映るのではないか。

 思えば、男性がスーツを着ていた時代には、ポケットがその機能を果たしていた。さらに時代をさかのぼり、紳士が狩猟をたしなんでいた時代には、上着の後ろにゲーム(獲物)を入れる大きなポケットがついていた。服がスポーティーでカジュアルになり、ポケットのないミニマルな服が増えるにあたり、原点の紳士の知恵に立ち返ってポケットに代わるバッグをつけたと見ることもできる。

 多様性を象徴するレインボーカラーによって、その知恵は、新時代にふさわしいクールなアレンジに見える。日常的にあったものを、見せ方や語り方を変え、全く新しい時代の先端を行く新鮮なものに変えてみせること。ゲームチェンジャー、ヴァージルの本領が発揮された「アクセサモーフォーシス」である。

文:中野香織