文・写真=藤原美智子

多様性のあるライフスタイルは身近で始まっている

 最近、身近でよく耳にする話。「東京から住所を移した」「二拠点生活を始めた」ということを複数人から聞くし、そうした人たちと知り合いになることが多い。あるいは「私も藤原さんのように二拠点生活を始めようと思っている」と声をかけられることも多い。

 これは今年の初め頃から顕著になっている現象。理由はコロナ禍で人口が密集している都会が嫌になったから。あるいはリモート化が進んだので住む場所はどこであっても差し支えなくなったから、というようなことを殆どの人が口にしている。

 その中には「将来は海の近くで暮らしたい」とか「いつかは自然を感じながら暮らしたい」と、「いつかは」と思っていた人も多いよう。それがコロナ禍によって彼らを具体的な行動へと駆り立てたのだから、何が幸いとなるかわからないものである。

 

私が二拠点生活を始めた理由

 ところで私が「藤原さんのように」といわれているのは、13年前から東京と静岡県下田市の二つを拠点にした生活をおくっているから。平日は東京で仕事をして、週末は下田で暮らす。そんな生活を続けている。

 ただし、このような暮らしを始めたきっかけは夫とデートでたまたま下田の海に遊びに来た時に、ここが気に入ったからという単純な理由。今までのライフスタイルを変えるためとか、熟考した上で決めたというわけでもなくノリで始まった二拠点生活という感じだ。

 だから最初は「来られる時に、来れば良いかな」くらいのスタンスだったのだけど、いつしか毎週毎に下田の家で過ごすようになり、仕事で下田に行けない週末を過ごした時は翌週がとても長く感じるようになったし、ソワソワと落ち着かない気分になるようにもなった。

 そういえば、ある仕事で脳科学者の方と対談をした時に「自然の中で3日間過ごすと、創造力や問題解決能力は50%アップする」ということを聞いた。そうすることで「都会生活で生じた脳の乱れは修正される。いちばん良いのは週末ごとに自然の中に身を置くこと」と聞いて、「やっぱり、そうだったのかー! 脳が私に訴えていたのね。だから落ち着かない気分になっていたのね」と一人合点したことがある。

 

成り行きと勢いで建てた下田の家

 そうそう。「ここに拠点があるといいよね」と考えた私たち夫婦は最初、「安いアパートでも借りようか」と話しているうちに、「改造しても良いような物件とかを借りようか」となり、最終的には土地を買って家を建てることになった。

 思いつきから始まり、土地を見つけて、家の設計図を終えるまでの期間は半年。成り行きと勢いがあったからこそ実現できたように思う。この話は、これから始まるこの連載のどこかで書きたいと思っている。

 

仕事も生き方も

 下田には私のように‘仕事は東京で’というライフスタイルを送っている人もいるけれど、住まいを完全に都会から下田に移しながら海外ともリモートで仕事をしている人。全国に店を持ちながらも、移住してきた下田にも新しい店を開いたり事業を始めようとしたりしている人もいる。

 インテリアデザイナーやカメラマンといったフリーランスの仕事をしている人たちは、仕事が入ったらその地に向かうというスタイルをとっているよう。

 このような人たちに共通しているのは、サーフィンやクロスバイクといったアウトドアの趣味を持っていること。あるいは子供を自然の中で育てたいと思っている人、釣りやトレッキングを趣味にしている人もいる。そのような彼らには、海も山も川も近い下田は理想の地ということになるのだろう。

 つまり彼らは仕事と生き方を別々に考えるのではなく、またはどちらかを選んだり、どちらかに比重を置いたりするのでもない。どちらも臨機応変にこなす柔軟な思考の持ち主たちといっていいだろう。

 そういえば、その殆どが30代後半から40代というのも興味深い。ある程度、仕事や生活の基盤ができている年代だし、まだまだ考え方もしなやかだし、生きていく体力も好奇心も旺盛。それが人生のシフトチェンジを軽やかに推し進めているのかもしれない。

 コロナ禍によって、そうした新しい生き方や多様な生き方が一般的になりつつある。そんなことを今、肌で感じながら私は二拠点生活を続けている。