文=甲斐みのり 撮影=平石順一

左から十六味保命酒 180ml 750円、300ml 1200円、500ml 1600円、900ml 2400円(すべて税込・送料別) 発売元=鞆酒造

350年の歴史をもつ日本最古級のリキュール

 個人的な話ではあるが、“お酒”そのもの以上に“酒場”が好きな私は、以前からお酒は外で飲むものと決めており、特別なことがある日以外、そうそう家で飲むことはなかった。さらにこの一年で外食の機会がぐっと減ったため、しばらくはお酒から離れた暮らしを営んでいた。

 ところがだ。私が家で作る料理といえば、ごはんに合うおかずというより、お酒のアテになるものばかり。普段ならば炭酸水で十分なところ、大好きな“酒場”不足が募るほど、今この時期は晩酌を楽しみたいと思うようになった。

 そんなとき贈りものとしていただいたのが、日本最古級の和製リキュールと言われる、広島県・鞆の浦(とものうら)産・〈鞆酒造株式会社〉の「保命酒(ほうめいしゅ)」。

 保命酒の起源は350年ほど前の江戸時代で、大阪の医師・中村吉兵衛が漢方の知識を生かして、醸造業が栄えていた鞆の浦で製造販売を始めた。当帰・芍薬・地黄など、13種類の漢方薬、麹米、もち米、焼酎を合わせて漬け込んだ、独特の甘みを持つ薬味酒(リキュール)は、幕府の献上品として全国的に知られるようになったという。

  幕末に活躍した長州藩士・高杉晋作は江戸への航海中、鞆の浦に立ち寄った際、「保命酒を求めかつ入浴」と日記に記したとされ、黒船で知られるペリーは静岡県の下田で食事をした時に食前酒として提供されるなど、よく知られる人物も口にしたとされる。

十六味保命酒 豆徳利(30ml〜300ml)800円。嗜好品としてはもちろん、その薬効も珍重された。

 現在は16種類の生薬を保命酒の原酒に漬け込んで濾過し、砂糖や人工甘味料を使わず麹から出る酵素で糖化するもち米の自然の甘さが、心身の疲れを優しくほどく。

 何年か前に鞆の浦を旅したとき保命酒を知り、「上質なみりんから作られる保命酒はアミノ酸を豊富に含み、健康や美容にいい」と聞き、まとめ買いをして少しずつ飲んでいた時期がある。

 それが切れてしまったことでしばらく間が空いてしまったが、久しぶりにお湯で割って口にすると、ぽかぽか体が温まり、ぐっすり眠ることができた。以来、食事の際に常温の炭酸水で割って飲むように。アルコール分は14%ほどあるので、一度の分量は控えめに、ちびちびと味わう。

鞆の浦。中央から左に見えるのが燈籠塔。写真=広島観光連盟

 鞆の浦は、広島県福山市の沼隈半島の先端に位置する海辺の町で、瀬戸内海の潮の流れがこのあたりで変わるため、江戸時代から「潮待ちの港」として栄えた。

 町のシンボルでもある燈籠塔と呼ばれる常夜灯や船番所跡、昔ながらの町家や寺社が点在し、風光明媚な景色が広がる風情ある町並みを何かのきっかけで知ってから、いつか旅してみたいと思い続け、何年か前に念願かなって訪れた。宮崎駿監督は『崖の上のポニョ』の案を鞆の浦の滞在中に練ったそうで、映画の舞台が目の前の風景と重なって見えた。

 保命酒は今、鞆の浦の4つの会社が伝統を受け継ぎ作っている。4社それぞれ少しずつ成分や味が異なるので、また自由に旅ができるようになったら、試飲しながら鞆の浦を歩いてみてほしい。