カルティエの『サントス‐デュモン』
RECOMMENDED BY 福留亮司

文=福留亮司

サントス‐デュモン /クォーツ、SSケース、38×27.5㎜、38万5000円

知りたい50万円以下のモデル

「いい腕時計をひとつ持っておきたいんですが、何がいいですかね?」

 と、たまに聞かれることがある。そんなとき、ついつい価格が高めのモデルを言ってしまうことが多い。

 何度もスイスに足を運んで取材をし、いいモデルを見せてもらっているので、ちょっと感覚が麻痺しているのかもしれないと反省しつつ、各ブランドのモデルを見直してみた。とくに彼らが知りたがる50万円以下のモデルを中心に。そして、いくつか“いいなぁ”と思うモデルを再確認した。

 その中のひとつに、カルティエの「サントス」がある。なかでも2019年にリニューアルし、そのラインナップにあるレトロ調のモデル「サントス‐デュモン」はとてもいいと思う。近年は、かつて存在したモデルをベースに現代的な解釈で新しい腕時計を生み出す、いわゆる復刻モデルが人気なのだが、クラシカルなデザインということでは「サントス‐デュモン」は抜群にいいと感じている。

 もちろん「サントス」は復刻モデルではない。現役バリバリで、カルティエの柱のひとつとして、現在も人気のコレクションである。

 

操縦かんから手を離さずに時間を確認

 この「サントス」、そもそもは気球での初飛行を成功させていたブラジルの飛行家、アルベルト・サントス=デュモンから、「飛行中でも、操縦かんから手を離さずに時間を確認できる時計を」との依頼を受け、1904年に完成させたものだ。

 「サントス」は飛行中での使用ということもあり、飛行機からインスパイアされたケースは、懐中時計の定番であるラウンド型ではなく、スクエア型となった。しかも4つの角が丸みを帯びたデザイン。さらに飛行機部品をつなぐネジをイメージしてケースにビスが埋め込まれるという独特のスタイルで登場したのだ。

 そして、その個性的なデザインの時計には、腕に装着したまま時間が見えるようにレザーストラップが付けられていた。その後、この画期的な“腕時計”は、11年に量産化され、またたく間に世界的人気のコレクションになっていった。腕時計の時代がいよいよ始まったのである。

 そんな1世紀以上も前に形づくられた「サントス」の意匠を、この「サントス‐デュモン」は継承しているのだ。

 エッジをきかせた角型のケース、ケース側面からラグへのなだらかな曲線。リューズにはパール状の飾りがつき、その先端にはブルーカボションがつけられている。これがなんともカルティエらしい。ダイヤルはローマ数字のインデックスにバトン針という正統派。まさに“カルティエの顔”といったところである。

時計の顔である文字盤は一目で誰もがそれとわかる。リューズのブルーカボションと相まって、まさにThe Cartierである

搭載されたクォーツムーブメント

 と、ここまで書くと、たいていは“そこに伝統的な機械式ムーブメントが載る”ということになるのだが、この「サントス‐デュモン」はその容姿に反してクォーツムーブメントが搭載されている。

 もちろん、機械式じゃないと嫌だ、という時計愛好家が多いのは承知している。ただ「いい腕時計が1本欲しい」という人は、そこにこだわる必要はないと考える。いまは機械式以外にも、クォーツ、電波時計、GPSなど新しいムーブメントが出てきている。新しいテクノロジーであり、精度も圧倒的に高い。

 なので「サントス‐デュモン」に、あえてクォーツムーブメントを組み合わせてきたカルティエのセンスが素晴らしいのだ。

 ただ「サントス‐デュモン」搭載のクォーツムーブメントは只者ではなく、カルティエが新開発したもの。消費電力を抑えた画期的なのもので、約6年間にわたって高精度で連続作動する長寿命化を実現しているのだ。それは従来のクォーツ・ムーブメントの約2倍ものパワーということだ。電池寿命が長いことで、電池交換というクォーツムーブメントのデメリットもクリアしているのだ。

厚さ7.3㎜の薄いケースとラウンドしたラグが快適な装着感を生む

 そして、薄くつくれるクォーツムーブメントということで、ケース厚がわずか7.3㎜に抑えられているのも、見た目の美しさや装着感に大きく寄与している。

 この「サントス‐デュモン」は、46.6×33.9㎜のXL(手巻き)、43.5×31.4㎜のLMとひと回り小さい38×27.5㎜のSMの3サイズで展開しているが、お勧めはSMサイズのステンレススティールモデル。控えめでエレガントである。しかも価格が38万5000円というところにも好感が持てるのだ。