〝ライカ〟の『ライカM10-R』
RECOMMENDED BY 山下英介

スタイリング=櫻井賢之 撮影=唐澤光也 文=山下英介

誕生以来数多のフォトグラファーを虜にしてきたM型ライカは、そのプロダクトとしての魅力ゆえに、歴代のウェルドレッサーにも支持されてきた。デジタル化以降はその傾向はより顕著に。クラシック、ストリート、モード、ヴィンテージなど、多彩なジャンルのセレブリティやファッショニスタが愛用している。写真はその最新モデル『ライカM10-R』と、超人気のレンズ『ズミルックスM f1.4/50mm』である

〝ライカ〟以前、〝ライカ〟以降。

 2015年4月以降、僕の人生は劇的に変わった。「写真」という一生付き合える趣味が見つかったこと。そして少々口幅ったいのだが、「写真が撮れる」エディターになったことである。それもこれも、すべて〝ライカ〟との出会いがきっかけである。

 いわゆるM型ライカと出会った日のことは、今でも忘れられない。仕事上必要に迫られて、高級コンパクトデジタルカメラ『ライカX (Type113)』を購入したその日、ついでに見せてもらった『ライカM (Type240)』。自分には縁のない存在と思っていた、この超高級機種を手に取った瞬間、僕の心臓が高鳴った。〝パテックフィリップ〟の『カラトラバ』や、〝ジョンロブ〟の靴に匹敵する、物体としてのオーラ。心に静かに訴えかけるような、「コトン」というシャッター音。しかも何の気なしに店内でシャッターを押しただけなのに、驚くほど情感豊かな写真が撮れるのだ。

 「これは今まで使ってきたカメラと全く違う……!」

 かくして『ライカX』を購入して数ヶ月後、早くも僕の手元にはもう一台の〝ライカ〟、『ライカM (Type240)』が加わった。

こちらが筆者の所有する『ライカM-P (Type240)』と、オールドレンズの銘玉と言われる『ズミクロン35㎜』の通称〝8枚玉〟。使い込んで真鍮の地金が露出した様子は、あたかもヴィンテージジーンズの色落ちを彷彿させる。この2つのカルチャーにはたくさんの共通点があるため、ヴィンテージ愛好家のライカファンは非常に多い

〝ライカ〟のある生活。

 このカメラを買って以降、本当に色々な旅をしたし、その先々でたくさんの友人ができた。ついでにちょっとだけ撮影料も稼がせてもらった(笑)。特に海外のファクトリー取材には重宝したものだ。まあ、稼ぎのほとんどは新しいレンズ代に費やしてしまったが……。

M型ライカを買ってわずか4ヶ月後、2015年冬に旅したベネチアでの写真。テクニカルなことはわからないが、〝ライカ〟のセンサーとレンズは、その場所の空気感や情感をそのまま伝えてくれるのだ

 幼稚園児にカメラの絵を書かせたら、きっとこの形になるだろう、と思えるほどプリミティブな〝ライカ〟のデザインは、撮られる人を緊張させないようだ。だからなのか、このカメラを構えているときの僕は、いつもよりも積極的。そんな人との距離感や空気感が、写真にも現れているような気がする。もちろん、ライカレンズが誇る圧倒的な性能によるところが多いのだが。

ドイツ中部のウェツラーにある、〝ライカ〟の本社兼ファクトリー。こちらは近年ミュージアムやショップ、ホテルなども設けた複合施設「ライツパーク」へと進化した

 気がついたら、僕の〝ライカ〟のボディにはたくさんの傷が刻まれてしまったが、まるでジーンズの味出しのような感覚で、個人的にはとても気に入っている。ちなみに現在使っている『ライカM-P (Type240)』は、2014年に発表されたモデル。デジタルとはいえ数年で陳腐化することはなく、じっくりと付き合っていける点が、〝ライカ〟の魅力なのだろう。

 

4000万画素の〝ライカ〟登場!

というわけであと数年は使い続けるつもりだったのだが、その気持ちを揺さぶる最新作が、数年ぶりに登場してしまった。その名も『ライカM10-R』。平たくいうと「4000万画素の〝ライカ〟」である。最近は1億画素を謳うスマホも登場しているくらいだから、画素数と描写の優劣はまた違った話なのだが、やっぱりより解像度の高い〝ライカ〟は魅力的である。当たり前といえば当たり前なのだが、その立体感は僕の『ライカM-P (Type240)』を凌駕する。

こちらは〝ライカ〟から取り寄せた作例。コントラストの強いピーカンでの撮影でも、いやなギラつきがなく、ナチュラルな写真になるのは〝ライカ〟ならでは。遠くに写っているレンガひとつまで見事に解像しているから、建物だけをトリミングして使っても、十分作品として成立するのだ

 国産のコンデジや一眼レフしかしか使ったことのない人に説明すると驚かれるのだが、レンジファインダー機であるM型ライカの特徴として挙げられるのが、「寄れない」こと。〝ライカ〟のM型レンズの最短撮影距離はほとんどが70〜100㎝であるため、いわゆるテーブルフォトや時計のように、近くのものや小さなものを撮影するのには不向きなカメラなのである。しかし4000万画素の〝ライカ〟であれば、トリミングしてもその画質を損なうことはない。これは遠くの被写体を強調するときにも効果的。すなわち〝ライカ〟ユーザーのジレンマを解決する1台なのだ。これは欲しくなるでしょう!

 

なぜ〝ライカ〟を買うべきなのか?

 解像度や低ノイズ性など、様々な面においてアップデートを遂げた『ライカM10-R』。しかし最も感心させられるのは使い勝手。すべての操作が理にかなっていて、体に染み込ませてしまえば、自分の脳や手と一体化したような感覚を得られる。機能をてんこ盛りにしがちな国産デジカメにも、この思想はぜひ見習って欲しい!

 最近、ファッション業界の友人から「僕もいいカメラを買いたいのだけれど、何を買えばいいのかな?」という質問を多く受けるようになった。その度にM型ライカの最新型を勧めるようにしているのだが、みんな「シロウトには難しくない?」と訝しがる。

 そんなとき、僕は「●●●●(国産高級デジカメ)が〝レクサス〟だとしたら、〝ライカ〟は空冷の〝ポルシェ〟『911』みたいなものかな?」と説明する。最初は少しだけ手間はかかるけれど、原理さえつかめば決して難しくはないし、長年愛せて、自分の世界を広げてくれる……。そんな喜びを味わいたいなら、あなたが今手に入れるべきカメラは、絶対に『ライカM10-R』しかない。

 

追記:現在はフィルム機の『ライカM-P』も所有し、どっぷりと〝ライカ〟沼で溺れている僕だが、これから挑戦しようという方にひとつ伝えておきたいことがある。〝ライカ〟の最初の一台としてフィルム機を推薦するマニアやプロ写真家も多いが、個人的には絶対にデジタルのM型ライカを買うべきだと思う。確かにフィルム機は一生モノだが、現在のフィルムの価格や現像代を考えると、上達するまでにコストがかかりすぎるのだ。まずはタダでいくらでも練習できるデジタル機で経験を積み上げてから、フィルム機に挑戦してほしい。