"ジョンロブ" の『ウィリアム75』
RECOMMENDED BY 山下英介


スタイリング=櫻井賢之 撮影=唐澤光也 文=山下英介

〝ジョンロブ〟が誇る名品『ウィリアム』をベースにつくられた、イヤーモデル『ウィリアム75』。通常モデルと何が違うのか、まずはじっくり見てほしい

改めて〝ジョンロブ〟の理由

 最近、ヤングエグゼクティブ(死語)の間で〝ジョンロブ〟が流行っているらしい。僕が若かった頃の紳士靴愛好家といったら、たいてい学生時代の〝ハルタ〟か〝リーガル〟を皮切りに、〝ローク〟や〝チーニー〟といったリーズナブル英国靴を経由して、〝クロケット&ジョーンズ〟や〝サントーニ〟あたりに着地。それでも満足できない業深き洒落者が〝ジョンロブ〟にたどり着く……。という一連の流れを踏襲したものだが、時代は大きく変わってしまった。今の若者はSNSなどで大量の情報を取捨選択できるから、余計な回り道なんてしない。「どうせ買うなら最高のものを」と、一直線に〝ジョンロブ〟に向かうのだとか。

 その行動は確かに正解なのだが、いきなり最高峰を手に入れちゃうと、かえって他と何が違うのかわからない人もいるかもしれない。そこで紳士靴の旧世代にあたる僕が、私見も踏まえて〝ジョンロブ〟のすごさをお教えしよう。

 

ジョンロブの実力をおさらい!

1.革のクオリティが違う
〝ジョンロブ〟が使う素材は、きめ細かで透明感にあふれた、世界でも最高峰の革である。しかも素材そのものの素晴らしさに加え、その中でもキズやシワを省いた「よいところ」しか使わないから、どこから見ても美しいのだ。素材によっては巨大な1枚のレザーから、1足分しか取らないこともあるという。

繊細かつ有機的なパターンを活かすため、いまだに手裁断で切り出される、〝ジョンロブ〟のレザー。気付く人は稀だが、左右でクオリティの差がない点も、ポイントのひとつだ

2.中身も違う
安価な靴は爪先やヒールなどに不織布やプラスチック系素材が使われていることが多いが、〝ジョンロブ〟はほぼすべての芯材にレザーを採用。中底には練りコルクが敷き詰められている。最初はちょっと硬く感じられるかもしれないが、形崩れもしないし、一度足になじんでしまえば、その履き心地は抜群。底付けは他の多くの英国靴と同じ堅牢なグッドイヤー製法だが、接着剤をあまり使っていないため、通気性もよいしソール交換のときレザーに負担がかからない。つまり長く履けるのだ。

3.職人の技量も違う
靴を至近距離から眺めることはあまりないかもしれないが、ほかの靴とよく見較べてほしい。〝ジョンロブ〟の靴はステッチがほかより圧倒的に細かいし、コバの刻みが非常にくっきりと入っていることがわかる。そんな職人の超絶技量がひと目で分かるのが、革の内部に糸を通すことで、その表面に浮き出たあばらのように装飾的な抑揚を与えた、「スキンステッチ」というディテールだ。

Uチップシューズにスキンステッチを施す職人。爪先の部分は全く縫い目を出さないように仕上げるため、特に集中力を必要とするらしい

4.木型が違う
人間の足を立体的に捉えてつくった〝ジョンロブ〟の木型は、まるで生き物のように曲線で構成された、有機的なフォルムが特徴。当然フィット感にも優れているし、見た目にも美しい。

 

職人たちの腕の見せ所「イヤーモデル」

 マニアにとっては極めて初歩的な内容かもしれないが、以上が〝ジョンロブ〟が究極の既製靴たる所以。もちろんアンダーステイトメントをモットーにする英国ブランドゆえ、普段はこういったこだわりを、ことさらに主張することはない。

 しかし年に一度だけ、こちらの職人たちが、自分たちのものづくりを高らかに誇る〝舞台〟が用意されている。10月25日、すなわち靴の守護聖人である聖クリスピンの日に発売される限定品「イヤーモデル」のことである。

 実用性だけに捉われることなく、〝ジョンロブ〟にしかできない素材やレザーを惜しみなく注ぎ込んだ、アートピースと呼ぶにふさわしい靴が例年ここから生まれているのだが、2021年モデルの希少価値はなかでも抜きん出ている。なぜならダブルモンクストラップの名品『ウィリアム』の誕生75周年を記念してつくられた、その名も『ウィリアム75』だからだ。

 

超絶技巧の結晶『ウィリアム75』

 手仕上げでムラを演出した艶っぽいカーフや、美しく磨き上げられたメタルのバックルだけに見惚れていると、この靴の真骨頂には気付けない。なんとこの靴、サイドにもヒールにも継ぎ目が見当たらない。中心をくり抜いたような形状の一枚革で仕立てた、いわゆるホールカットなのである! 

一枚革で仕上げた「ホールカット」の醍醐味は、継ぎ目のないヒールの曲線美。「パンツに隠れて見えない」なんて無粋! 見えない場所だからこそエレガントなのだ

 えっ、トウのキャップ部分を継ぎ合わせているじゃないかって? いやいや、こちらは甲に切り込みを入れ前述のスキンステッチを施すことによって、トウキャップに見たてているのだ。ステッチをコバまで施さず途中で消しているのは、その技法をあえて誇示したものと思われる。言うはたやすいが、このスキンステッチという手法は2本の猪の毛針を使って革の断面をすくい縫いするという、まさに超絶技巧! 数寄者が見れば驚愕のディテールである。

内側に手縫いで施された「XXI」のステッチ。よく見るとストラップのかぶせ部分はミシン縫いではなく、ブラインドステッチと呼ばれる手縫い仕上げ。あまり目立たない内側ですら、このこだわりぶり

 ストラップの内側には2021年を表す「XXI」の文字を手縫いで施すなど、嗜好品としての魅力を極限まで高めた、『ウィリアム75』。正直いって履くのはもったいないくらいだが、履かねば人には見せられない。靴好きにとっては、なんとも贅沢な悩みを教えてくれる1足である。