文=今尾直樹 写真=山下亮一

ランドローバー・ディフェンダーはレンジローバーのディフュージョン版的な存在でもある。いや、ディフェンダーの高級版が1970年に登場したレンジローバーだったことを思えば、両者の関係はいまも同じだともいえる

70年ぶりに生まれ変わった

 およそ70年ぶりに新型に生まれ変わったランドローバー・ディフェンダー。ボディの短い2ドアの90と、かなり長い4ドアの110の2種類が発表になっていて、ここでは4ドアの110のなかでも装備のいちばんシンプルなエントリーモデルをご紹介する。

 この手の、いわば働くクルマは「シンプル・イズ・ベスト」、「レス・イズ・モア」というのが常識的な見方だろうと思う。110には車両価格589万円のエントリーモデルから、いちばん高い820万円まで、全部で少なくともこの1年は5グレードが販売される。値段の違いはシート表皮がファブリックからレザーになるなどで、エンジン、足回りの機能面については基本的に同じだ。もちろん使い方にもよるけれど、ひとりで焚き火キャンプに行くんだったら、589万円のシンプルな装備のモデルを使い倒せばいいじゃん、という話です。

 ひとり焚き火キャンプなら、2ドアの90はもっと魅力的かもしれない。499万円からだし。ところが世界的な新型コロナの影響で90は生産が遅れており、日本への上陸は来年の春以降になる。

 というわけで、借り出した新型ディフェンダー110は、フジホワイトという富士山の雪を思わせる純白のボディ色に、黒いファブリックの内装で、「オシャレな働くクルマ」という感じがして、筆者はひと目で「いいなぁ」と思った。都内で乗るにはかなり大きいけれど、かなり大きいので、まわりも一目置いてくれる。ジャイアンにケンカをふっかけないのは、「ドラえもん」のなかだけではなくて、交通社会においても同じだ。なので、恐れることなかれ、堂々とゆっくり走ればよい。

 

スパルタンと呼んでもいい

 乗り心地ははっきり硬い。スムーズな路面ではスムーズだけれど、たとえば首都高速の目地段差ではドシン、バタンと衝撃が伝わってくる。たぶん最大積載量が多いのだ。働くクルマだからして。スパルタンと呼んでもいいかもしれない。

 スパルタンといえば……、イギリスの伝統校の寮は、冬になっても暖房が入らず、ものすごく寒いのに毛布1枚で過ごさねばならないという。未来のリーダーとなる少年たちは、そうやって未来のリーダーとなるべく、スパルタ教育でもって鍛えられる。

 新型ディフェンダーの乗り心地は、いわばイギリスのスパルタ教育と呼ばれるものから連想するような、あくまで連想するのはイギリスのスパルタ教育とは無縁の筆者ですけれど、映画「炎のランター」だとか「ハリー・ポッター」とか、あるいは『自由と規律』にも一脈通じる、一本芯の通った硬さなのである。

 いや、そもそもディフェンダーが貴族的なクルマなのかどうか? 基本的には労働者のクルマである。でも、なんとなく貴族的な気がする。たとえになっているかどうかはともかく、たとえば、1950年代、東北電力の初代会長に就任した、かの白洲次郎は“現場主義”を貫き、みずからランドローバーを駆って福島県の只見川電源開発に取り組む従業員を励ました。白洲は1952年から54年にかけてランドローバーを200台導入し、各営業所に配備、悪路の多いエリア内の巡視やサービス向上に役立たせたという。

 1950年代に、敗戦国のニッポンがわざわざイギリスから200台も導入したというのだから、さすが白洲次郎である。

ちゃんと白線内に駐めても、はみ出そうな巨体。撮影中、中学生ぐらいの男の子が踊るように寄ってきて、憧れの眼差しでジッと見ていた。昔だったら力道山とか長嶋茂雄、現代ならオカダカズチカか坂本勇人に出会ったみたいに