"ブリオーニ" のジャケット『レッジェーラ』
RECOMMENDED BY 山下英介


スタイリング=櫻井賢之 撮影=唐澤光也 文=山下英介

今までにないカジュアルでリラックスしたムードの〝ブリオーニ〟。これならTシャツの上にだって合わせられる!

ちょっぴり高尚、ローマンスタイル

 都市国家として成り立ったイタリアは、今もなお土地ごとに独自の文化を色濃く残している。書き出すときりがないが、ピザはやっぱりナポリが一番美味しいし、パレルモの下町はなんだかアラブみたいだし、ミラノやブレーシャのおじさんたちは南の人ほど陽気というわけではない。日本人のイメージの中ではジローラモもカルボナーラも一緒くたという感じだが、イタリアといってもひとくちには語れないのだ。

 というわけで、今回紹介する〝ブリオーニ〟はローマを拠点とするイタリアブランド。ローマといえばイタリアの首都であり、政治・経済・宗教における中心地。となるとこの街を歩く男たちのファッションは、見事にコンサバティブなのである! イタリアには豊かなサルトリア(テーラー)文化があるが、フィレンツェやナポリのそれが華やかでファッショナブルなのに対して、ローマのサルトリアはけっこう地味。ぶっちゃけあまり絵にならないので、ファッション誌の取材が入ることはごく稀なのである……。

 だからエリートビジネスマンや政治家を主な顧客に持つ〝ブリオーニ〟も、そういった「ファッション誌」目線でいうと、ちょっと過小評価されがちな面がある。イタリアのサルト(仕立て職人)といえばほぼ全ての工程を手縫いで仕上げる超絶技巧で知られているが、ナポリのサルトがあからさまに手縫い感をアピールするのに対して、〝ブリオーニ〟の職人は恐ろしく美しく、そして端正に縫い上げる。洋服を知らない人や、ナポリ的ハンドクラフト原理主義者たちが見ると、きれいすぎてミシン縫いみたいに見えちゃうから、いたって中庸なシルエットやシックな色味も相まって、ぱっと見でそのすごさに気付かれないのだ。元ヤクルトの内野手宮本慎也の守備が、あまりにうますぎてファインプレーに見えないのと同じ原理である。しかし、かくいう僕も今まで〝ブリオーニ〟のジャケットに袖を通したことはない。だってあくまでこちらがつくるのは、世界を舞台に働くエグゼクティブのための服。その日暮らしのフリーエディターにとっては、ちょっとお堅いんだよね……。

 

ダブルフェイスの総手縫いという、超オーバースペック

2枚の生地を手かがりで1枚にした、「ダブルフェイス」生地。英語だと簡単そうだが、日本の職人の間ではこの技術は「毛抜き合わせ」と呼ばれている。極めて高い技術を必要とするため、こういった生地をつくれる工場は世界でもわずかだ

 でもこの秋、〝ブリオーニ〟が創業75周年を記念してつくったジャケット『レッジェーラ』を見て、そんな固定概念は見事に覆された。要するにめちゃくちゃ着たいのである! 生地はなんと、カシミアシルクを混紡した極薄生地2枚を手作業で「接結」して1枚にした、ダブルフェイス。生地自体が極薄であるのはもちろん、当然芯地やパッドなどは一切使っていないから、着心地はとんでもなく軽い。しかも、普通こういったジャケットはコストダウンのため縫製を簡略化することが多いのだが、こちらの場合はほぼ手縫い! 普段の〝ブリオーニ〟なら生地のエッジギリギリにしか入れない「コバステッチ」を、ちょっと目立つ位置に入れるなど、よりオーバースペックというか嗜好性をアピールしているようだ。そのステッッチ数はなんと6000針! ジャンルとしてはアンコンジャケットなのだが、あまりに巷のそれとはクオリティが段違いすぎて、同列に語るのには躊躇してしまう。

襟やポケットまわりのエッジを落ち着かせるのと同時に、装飾的な意味合いを持つ、「星ステッチ」と呼ばれる縫製。高級サルトリアはここを手縫いで仕上げて上質感をアピールすることが多いが、〝ブリオーニ〟のそれは、ひと粒ひと粒が異常に美しい

 こんなカジュアルなジャケットなら、僕のような華やかな場所には縁のない服オタクでも、普段の装いに取り入れられそうだ。リモートワークが中心となった昨今のビジネスシーンにもマッチしているから、もちろんエグゼクティブの方々にもおすすめしたい。僕だったら〝マーガレット・ハウエル〟のバンドカラーシャツに、ボロボロのヴィンテージジーンズ、〝オールデン〟のローファーといった着こなしかな。とてつもない手間暇をかけた一着だけあって、お値段こそカジュアルというわけにはいかないが、ぜひとも〝ブリオーニ〟の真価を気軽に楽しんでみてほしい。