文・写真=櫻井卓

写真では伝わらない壮大さ

 ハッキリ言って舐めていた。

 ポストカードや写真は何度も見たことがあったし、なんとなく知っている気でいたのだ。でも生で見るグランドキャニオンのスケール感は尋常じゃなかった。

 たいていの観光客はここで引き返す。けど、僕が目指すのはこの巨大な裂け目の底。1300m下だ。

 グランドキャニオンには、いくつもトレイルが付けられていて、多くのハイカーが集まる場所でもある。今回はサウスリムと呼ばれる南側から下りていくルート。底まで降りることを通称「RIM TO BOTTOM」と言い、これを達成すればハイカーにとってはちょっとした自慢の種になる。

積み重なった地層が眼前に迫る。この景色は歩いて下った人間だけが目にすることができる

 行くきっかけはヨセミテで出会ったハイカーだった。イーグルピークと呼ばれるややマイナーな山頂で出会った1人の青年。いかにも旅慣れてそうな雰囲気だったから「いままで一番旅して良かった場所は?」という質問をしたんだけど、迷うことなく「グランドキャニオン」という返事。何度も通っている場所だという。

 トレイルヘッドからは、当たり前だけど延々と下りが続く。徐々に標高を下げて行くと、植生も変わってくるし、気温もどんどん温かくなってくる。山登りとは逆の変化。当たり前なんだけど、新鮮な感覚。

 要注意なのは行く時期。夏場は暑すぎて洒落にならないので、春か秋がおすすめだ。ちなみに僕が行ったのは真冬。上は雪がちらつく寒さだけど、底まで下ると春の陽気。

ミュールと呼ばれる馬とロバの交配種。いまでも荷運びなどに利用されているほか、ミュールで下るツアーもある

 横をみると幾層にも重なっている地層が壁となって迫ってくる。地球の内側にもぐりこんでいくような、自分が小さな虫にでもなった感覚。グランドキャニオンの底の地層は、なんと20億年前だ。

 何十億年という月日が生み出した景観の中にいると、地球というものの規模感に呆然となる。同時に、人間というものの儚さなんて、ガラにもないことも考えてしまう。

つづら折りの道を延々と下って行く。底にはファントムランチというコテージの他、キャンプサイトもある

 いままで壮大な景色をいろいろ見てきた。

 そんな中でも、人間のちっぽけさ、地球が刻んできた悠久の時、そういうものを最も感じるのはグランドキャニオンがぶっちぎっている。いま、世界中で気候危機が叫ばれている。このままのペースで行けば、そう遠くない未来には、人間が住むには苛酷な場所になってしまうかもしれない地球。

 人間はもっと謙虚になるべきなのかもしれない。自然とそう思わされる景色がグランドキャニオンにはある。だからこそ、コロナ禍のいま、もっとも訪れたい場所でもある。

グランドキャニオンの底へと降りる道のりは、地球を感じる巡礼の旅