文=岡崎優子

7月31日より全国17館で公開され、満席回が続出する好スタート。戦後75周年に向けて、全国69館での拡大公開も決定済み

前作『花筐』を上回るインパクト!

 4月10日に公開が予定されていた大林宣彦監督作品『海辺の映画館-キネマの玉手箱』がコロナ禍の影響で延期、7月31日、ようやく初日を迎えた。公開当日、都内の劇場は売り切れが続出。大林監督の遺作となった本作をいち早く観ようと、多くのファンが訪れた。

 大林監督が第4ステージの肺がんと診断され、余命半年の宣告を受けたのは2016年8月。奇しくも前作『花筐/HANAGATAMI』(17)のクランクインを前日に控え、スタッフやキャスト、地元の関係者と決起会を開こうとしていた数時間前のことだった。

 以降、監督のがんとの闘いが始まる。病院で寝泊まりし、治療を受けながら『花筐』を完成させ、翌17年12月16日に公開。その、映画にかける執念、情熱は凄まじかった。そしてその内容も! 

 商業監督デビュー作『HOUSE ハウス』(77)以前に、檀一雄の同名小説を原作に書き上げていた脚本を、40余年の時を経て映画化。太平洋戦争勃発前夜の若者たちの青春と、それを呑み込んでいく戦争の暗い影を大林監督ならではの演出と映像で描き出す。『この空の花-長岡花火物語』(12)『野のなななのか』(13)に続く“戦争三部作”の最終作でもある。

 そのインパクトは大きく、同作は第72回毎日映画コンクール日本映画大賞、第91回キネマ旬報ベスト・テン監督賞&日本映画ベスト・テン 第2位、第15回シネマ夢倶楽部表彰ベストシネマ賞第1位、第33回高崎映画祭特別大賞受賞と、17年を代表する作品となった。

 ようやくこれでひと息つき、治療に専念されるのだろうと思いきや、すぐに『海辺の映画館』の企画が立ち上がり、18年6月より撮影を開始。9月にクランクアップするも、その後、延々と合成・編集作業が続く。特に今回は通常3~6カ月で終わるところ、1年以上かかったと、監督の妻でもある大林恭子プロデューサーは語っていた。そして「監督はこの作業を終えたくないんじゃないかと思った」と。

 映画が完成したのは19年11月。初披露となった東京国際映画祭では特別功労賞を受賞。その時、大林監督は「人間はやったことよりも、やらないことの方がいっぱいあるのだから、やらないことをやれば、星の数ほど、それ以上の面白い冒険ができる。だからこれから3000年、4000年生きなきゃいけない」とコメントしていた。