写真・文=橋口麻紀

Fiore di ciliegio di Modena|モデナの桜

〝ANDRÀ TUTTO BENE〟 ~大丈夫、きっと全てうまく~

 イタリアの春。今年の春は、イタリア人にとっても全世界の人々にとっても、みんなで力を合わせて乗り越えないといけない春です。家族を誰よりも大切に思うイタリア人はことさらつよく感じています。

 毎日夕方6時に政府から発表される、新型コロナウイルスの最新情報に全イタリア国民が耳を傾け、その情報で次なるアクションを確認しています。そして、今はみなが耐えるときと踏ん張っているのです。

〝ANDRÀ TUTTO BENE〟(大丈夫、きっと全てうまく)は、今のイタリアの合言葉です。様々なイタリアの情報が日本で報道をされていますが、イタリア人はきちんと政府の指示を守り、落ち着いています。

 唯一認められている外出は、スーパーマーケットと薬局。ミオ・マリート(うちのダンナさま)も自宅から一番近くのスーパーに出かけます。イタリアの春も桜が咲き、その訪れを五感で感じられる、もっとも心が躍る季節を迎えています。今年はスーパーに足を運ぶ道中が、花を愛でることができる唯一の時間です。

 

マンマの食育はどんな時でも人生を豊かにします

 イタリア人は、この状況を悲観してばかりではないのです。制限があるなかで、今だからできることをしています。そして、どんな時でもイタリア人の人生を豊かにするもののひとつ、それは”食”です。外出禁止の今、ミオ・マリートはマンマ(ママ)直伝の食育の成果を毎日発揮しています。

mio marito|うちのダンナさま

 隔週末毎に、マンマのつくってくれる心温まるお料理で食卓を囲んでいた家族との時間がとれない今、マンマから伝授されたレシピをミオ・マリートは再現しています。そんな日々のレシピから、イタリアの日常をみなさまに知っていただけたら嬉しいです。

Orecchiette con cime di rapa|オレキエッティ コン チメ ディ ラパ

 小さな耳という名のパスタ、オレキエッティの一皿。エキストラ ヴァ―ジンオリーブ オイル(以下、オリーブオイル)、塩、コショウで炒めたチメ ディ ラパ(日本でいうと大根の葉の部分のような野菜)とオレキエッティが最高のハーモニー。最後に炒ったイタリアの細かいパン粉を散らすのがマンマふうです。

Frisella con pomodori|フリセッラ コン ポモドーリ

 スーパーマーケットには、南イタリアのトマトが一年中豊富に並んでいます。シンプルに、オリーブオイルとオレガノのみを加えたトマトをフリセッラという南イタリアの硬くて薄いパンに添えて、ブルスケッタのように。オリーブオイルで硬いフリセッラがしんなりしてくるのが、なんとも美味。オレガノが際立っているので、塩、コショウは少々がおススメです。シンプルだからこそ、マンマからの教えが顕著にあらわれる逸品なのです。

Frittata con fiori di zucca|フリッタータ コン フィオーリ ディ ズッカ

 そしてこちらは、私が大好きなズッキーニの花が目にも鮮やかなフリッタータ(卵料理)です。卵にハードタイプのチーズ、パルミジャーノ・レッジャーノをふんだんに入れ、オリーブオイルとズッキーニの花を一緒にオムレツ風に。こちらももちろんマンマ直伝。パルメジャーノ・レッジャーノの塩味があるので、コショウを少々することで、全体が引き締まります。なぜか私が同じ分量でトライしても、ミオ・マリートがつくったテイストにはならないのです。ふしぎです。

Bruschetta con cavolo nero|ブルスケッタ コン カーボロ ネロ

 イタリアの黒キャベツをオリーブオイルと水でピアーノ、ピアーノ(ゆっくり、ゆっくり)ソテー。苦みが強いので、塩とコショウで何度も調整。鉄なべでカリッとさせたパンにガーリックで軽く風味づけしたのち、ソテーをオン。そして、最後にたっぷりのオリーブオイルを。カーボロネロの苦みとオリーブオイルの最高のマリアージュです。

Pomodori in padella con prezzemolo|ポモドーリ イン パデッラ コン プレッツエモロ

 トマトを半分にカットし、グラインダーしたニンニクとイタリアンパセリをトマトに載せ、たっぷり注いだオリーブオイルと共にフライパンでゆっくり、じっくり弱火で30~40分ほど。このレシピは、ノンナ(祖母)から受け継がれているようです。ゆっくり、じっくりがポイントなのです。イタリアの家庭料理はゆっくり、じっくりが基本です。これもマンマの教えです。

Spaghetti ai ricci di mare e bottarga|スパゲッティ アリッチ ディ マーレ エ ボッタルガ

 イタリア料理といえば、パスタと思う方も多いのですが、じつのところ毎日はパスタを食しません。ということで久々のパスタは、ストックにあった地中海ウニの缶詰を、シンプルにオリーブオイルと合わせたソースで。塩味は、スパゲッティをゆでる時に入れる塩で十分。最後にイタリアのカラスミ、ボッタルガをふりかけます。しばし、気持ちは大好きな海にいるような……。

 ゆっくり、じっくりとつくるイタリアの家庭料理。ミオ・マリートは、日々想いを込めてキッチンにたっているのです。

 イタリアは、たしかに今とても大変なときです。

 そんな時だからこそ、家族の想いが詰まったプレートや、それぞれ家族のマンマの食育で、この厳しい状況をもきっと乗り越えることができるのです。

〝NOI CE LA FAREMO e ANDRÀ TUTTO BENE〟 きっと乗り越えられる、そして、全てうまくいく。