スタイリング=櫻井賢之 撮影=長山一樹(S-14) グルーミング=HORI(BE NATURAL) 文=山下英介
オートクチュールの新しき担い手
2018年に執り行われた英国のロイヤル・ウェディングにおいて、メーガン妃のドレスをデザインしたのは、フランスを代表するクチュリエ〝ジバンシィ〟だった。2017年からそのアーティスティック・ディレクターを務めているのが、イギリス人デザイナーのクレア・ワイト・ケラー。オートクチュール文化の若き継承者と言われる彼女は、実はメンズテーラリングにおいても豊富な経験を持つプロフェッショナル。彼女の就任以降、〝ジバンシィ〟のコレクションにはエレガントなジャケットスタイルが復活している。
「伝統」と「未来」の響きあいから生まれるもの
2020年春夏コレクションのキーワードとして、クレア・ワイト・ケラーが掲げたのが「不協和音」。「協和しない2つの和音の組み合わせ」は、普通なら聞き手に違和感を感じさせるものだが、ときに思いもよらない美しい響きを奏で、私たちに深い余韻を残す。そして、今季彼女が組み合わせた「ふたつの和音」とは、「伝統」と「未来」であった。クラシックなテーラードジャケットやパンツをベースにしながらも、テクニカルな素材を使ったアウターやニット、スニーカーなどを合わせ、今までにないスタイルを生み出している。
今回撮影したルックこそ、そんな美意識の象徴かもしれない。デザインこそベーシックなセットアップスーツだが、鮮烈なメタリックブルーに加え、長い袖丈に短いパンツ丈という少々アンバランスなシルエット。そこにナイロン素材のTシャツやハイテクスニーカー、チェーンバッグなどを合わせ、スポーティかつ近未来的なスーツスタイルに仕上げているのだ。
テーラリングとクチュール技術の折衷
普通であれば一過性のアバンギャルドなルックで終わってしまうところだが、そこは〝ジバンシィ〟。ジャケットは上質なウールを使った、古典的な毛芯仕立て。しかもフロントにはダーツ(縫込み)ではなくプリーツを施すことで、デザイン的なアクセントへと昇華。繊細にして自由な感性をもつ、新しい男性像をつくりあげているのだ。メンズのテーラリング技術と、ウィメンズのクチュールの技術をともに習得したクレア・ワイト・ケラー。メンズファッションの新時代は、彼女のようなデザイナーによって切り拓かれるのだろう。