大谷 達也:自動車ライター

スーパーカーは怖い

 スーパースポーツカーはドライバーに緊張を強いる。

 恐ろしく高性能で、とびきり高価で、決して運転しやすいとは言い切れないのがスーパースポーツカーというものだから、ドライバーが緊張を強いられたとしても不思議ではない。職業柄、私も少なくない数のスーパースポーツカーに触れてきたけれど、クルマと自分の波長が同期するのに少なくとも10分程度は必要。それまでは、やや臆病なくらい慎重に、そしてゆっくりと走らせるのが私の流儀だ。

 けれども、昨年6月の国際試乗会以来、久しぶりに試乗したアルトゥーラは、ものの10秒ほどで自分との同期が完了。それでも注意深くドライブすることには変わりないけれど、またたく間に心に余裕が生まれると同時に、クルマとのコミュニケーションを深めていくにも大して時間がかからなかった。

 なぜ、アルトゥーラはこれほどすっと、私の身体に馴染んでいったのか?

マクラーレンの美点

 これはアルトゥーラだけに限らずマクラーレン全般にいえることだが、まずは視界が圧倒的に素晴らしい。

 車高が極端に低いスーパースポーツカーは、概して視界が限られているものだが、アルトゥーラの前方視界は、実に広々としていて視野角が広い。ちょっと大げさな表現かもしれないが、まるで映画館のスクリーンを見ているかのように、外の景色が眼前に広がるのだ。とりわけ、天地方向の視界が開けていて、まるで自分のつま先が見えるんじゃないかと思うくらい直前の路面がよく見える点は特筆に値する(実際につま先がフロントウィンドウ越しに見えることはもちろんない)。

 しかもAピラーの設定が巧みなので、右折時に歩行者を確認するのも難しくない(試乗車は左ハンドル)。エンジンをキャビン後方に搭載するミドシップにもかかわらず、斜め後方の視界が比較的良好なこともマクラーレン全般ならびにアルトゥーラの特徴といえる。